13章 6
行きたいんだ。ここに。その思いを言葉にするのは、意外と難しかった。
どうしても、たどたどしくなる。
だけど、以前のように父さんは途中で中断はしなかった。
「航海士の免許を取れるのは、他のところでも同じかもしれない。海があるのも。でも、オレはここがいいんだ」
「なぜだ」
「気に入ったから」
「理由になっていない」
「立派な理由だよ!」
バッサリと切り捨てる父さんに、オレは反論する。父さんはなんでも、自分の価値観で判断するけれど、オレの物差しとは違う。
「オレには、東京の生活がしんどいんだ!」
放った台詞に、初めて父さんが驚いた表情を見せる。オレは今のうちにと、たたみかけるように言葉を投げつける。
「東京はさ、確かになんでもあるよ。お金さえ払えば何でも出来るし、今住んでいるところは環境にも恵まれている。その恩恵は確かに受けているよ!? でもさ!」
オレは大きく息を吸う。一気に喋ったから、苦しくなったのだ。でも、父さんが呆気に取られている内に、言い終わらないといけない。
「オレは背伸びしながら、時間に追われて生活をするよりも、等身大の自分で自然と向き合って、過ごしたいんだよ!」
父さんは、オレの言葉を噛みしめるように、眉間にしわを寄せた。
でも、やっぱり父さんは、父さんだ。
「逃げだ、それは」
いつものように、バッサリと切り捨てた。いつもだったら、これで怯んでいたけれど、今日のオレは引き下がらない。
だって、隣にタケさんがいるんだぜ? カッコ悪いところは見せられないじゃん。
「それの何が悪いんだよ!」
開き直りにも聞こえてしまうオレの言い分。父さんは眉間のしわを深くして、なにか言おうと口を開きかけるが、言葉は出ないようだ。
はあはあと肩で息をするオレを前にして、母さんも何も言えないでいた。
心配そうに眉を寄せながら、父さんとオレを交互に見るだけ。
とうとう父さんは、苦虫を噛みつぶしたような表情になった。
その瞬間。
「努さんの負けやな!」
タケさんが父さんを豪快に笑い飛ばしたのだった。




