13章 5
「あれ、千尋?」
「おかえりなさい、陽太くん、有紗さん」
オレと母さんを今治港で出迎えたのは、千尋だった。
「ちょっと今、お客様が来ているんだ」
「だから千尋が代わりに来たんだ」
「そういうこと」
ニコッと笑う千尋に、オレは不安な気持ちを告げた。
「大丈夫なのかよ、千尋の運転で」
「あら、いいのかな、そんなこと言って」
母さんがオレを叱りつける前に、千尋はオレに向かって人差し指を突き出した。
「嫌なら歩いて帰ってもいいんだよ?」
「うっ……。ひ、卑怯だぞ!」
「何とでも言いなさい。さ、有紗さん。行きましょう」
「ちょっ! 待てって」
オレはスタスタと歩いていく千尋と母さんの背中を、慌てて追いかけたのだった。
※
お客様と言っても、タケさんの友達の秀樹さんか青年団の誰かだろう。
そう思っていたオレは、居間にいる人物を見て呆然としてしまった。
「おい、陽太。カバン、落ちたぞ」
「な、な、な……」
タケさんの声は届いていたが、そんなことどうでもいい。
何でここに。
「父さんがいるんだよっ!?」
「静かにしなさい」
そう、タケさんの向かいに座っていたのは、オレの父さんだった。
オレは、後ろに立っている母さんの方を振り向く。
「父さんに言ったのかよ!」
母さんはゆっくりと首を振って、タケさんを指す。
「お母さんじゃないわ。武史さん」
オレはグルンと再び回転する。
タケさんには高専のオープンキャンパスに行くから、って連絡をしていた。
せっかく今治に来るんだから、タケさんちにも来たかったし。
いや、決してタケさんや千尋に会いたかったわけじゃなくて!
トラ……そう、トラに会いたかったんだ。
事前に母さんと来る、ってタケさんに連絡したのはオレだ。
でも、わざわざ父さんに伝えるなんて、思っていなかった。
「タケさん!! 何で!?」
「陽太、座りなさい」
タケさんが口を開く前に、父さんの冷たい声が投げつけられる。
オレは渋々、タケさんに横に座った。
タケさんの目の前にいる父さんと向かい合う形になる。
母さんは、少し距離を開けて父さんの隣にしゃがむ。
千尋はオレたちに飲み物を出した後、台所へ引っ込んだ。きっと夕飯の支度をしているんだろう。
オレもそっちに行きたい。そう思うが、父さんの視線がそれを許さない。
「なに?」
ぶすっとした口調で返事をしたオレに、父さんは表情一つ変えない。代わりにため息をつくと、
「で?」
と、言ってくる。
「なにがだよ?」
「行ったんだろう、今日。ちゃんとプレゼン出来るんだろうな」
カチンとくる父さんの言い方。さっきまですごくいい気分だったのに、一気に台無しだ。
なんで父さんを呼んだんだ。
タケさんを睨みつけてみるけれど、横に座っている人はオレのことを見つ返す。
でも応援するかのように、オレの背中を叩いてくる。
まだ考えはまとまっていない。
けど、今が絶好のチャンスなのも分かっていた。
父さんを説得しないと、オレは高専を受験することは出来ない。
「あのさ!」
覚悟を決めたオレは、父さんに向かって声を張り上げたのだ。




