13章 4
母さんは、最初からオレにこの学校を受験させる気で、見学に来たようだった。
もちろん、オレもそのつもりだったけれど。母さんの真剣さは、下手したらオレより高いくらいだった。
オレが在学生に案内されている傍ら、どうやら先生をつかまえて質問攻めにしていたようだ。
「ほとんどの生徒さん、寮って聞いていたから。寮生活なんて陽太にできるのかな、って不安だったけれど、実際見てみたら、想像よりきれいで安心しちゃった」
「気にすること、そんなこと? もっと他にあるだろ……」
「重要よ」
母さんは、珍しくぴしゃりと言い切った。
「遠く離れた地に、大事な息子を行かすのよ。親なら安全性を重要視するのは、当たり前です」
強く言い返されて、オレはタジタジになる。
そんな風に言われると、プレッシャーになる。
「オレが受かる気、前提じゃん……」
「うん」
またまた断言する母さん。続く言葉は、意外なものだった。
「努さん……お父さんの血を引いているんだもの」
まさか母さんの口から、父さんへの褒め言葉が飛び出してくるなんて。
全部顔に出ていたのだろう。母さんは困ったように、でも少しだけ照れくさそうに笑った。
「お父さんとは別れる結果になったけれど。これでも尊敬しているのよ。小学校から公立の学校通っていて、東大に合格したことは。その後企業して、私にも陽太にも不自由のない生活をさせてくれたことも」
「なら、なんで……」
別れたんだよ、って言葉は飲み込んだのに。母さんは察してしまったようだ。
「そうねぇ。……違いすぎたから、かな」
「違いすぎた?」
「そう。育ちも家柄も、違いすぎたの。お付き合いしている時は、そこが魅力的だったのだけど、一緒に暮らすとなるとね。お父さんは窮屈だったと思うわ」
「好きだけじゃ、ダメなのかよ?」
オレの問いかけに、母さんは首を振った。
「うん。ダメだった」
きっぱりと否定した母さんの気持ちを測ることは、オレとってはまだ難しい。
悩んでいるオレの考えを中断したのは、母さんだった。
パチンと一度、手を合わせて音を立てた母さんは、もういつもの表情に戻っていた。
「さ、行きましょ。船の時間もあるし。……きっと待っているはずだから」
中途半端に中断されたから、オレはとっさに誰のことを指しているのかわからなかった。
「……あぁ、タケさんと千尋ね。きっとごちそうの準備をしながら、首を長くして待っているよ。お節介だから、あの二人」
オレの言葉に、なぜか母さんはあいまいに頷いたのだった。




