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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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2章 居候先の古い家 1

 家に着いたオレを最初に出迎えてくれたのは、猫だった。


「トラ、ただいま」

 タケさんは、暑さで気だるそうにしている猫の頭と顎の下を、ワシャワシャと撫でる。

 猫は嬉しそうに、ゴロゴロ喉を鳴らしたかと思うと、次の瞬間には鬱陶しそうに尻尾を振り回して、タケさんを追い払う。


 その様子が、テレビで見る猫と一緒でオレは、思わず笑ってしまった。

 と、タケさんがくるりと振り返ってオレに尋ねてきた。 

 

「好きか?」

「え?」

「猫」

「えっ……た、多分」

 

 しどろもどろになったのは、オレが動物を飼ったことがないから。

 友達の中には飼っているやつもいたけれど、遊びに行ったときはだいたいゲージに入っていた。

 だから玄関先で、デデンッと寝転んでいる猫は見たことがない。


「どうやらこの場所が涼しいみたいんや。夏はよう、ここにおる」

「へ、へぇ……」

 タケさんは玄関にドサリとオレの荷物を置くと、真顔で聞いてくる。


「触るか?」

「えっ!? い、いいよ! いいです!」

「怖いんか?」

 そういう言い方をされると、カチンとくる。 


「怖くないしっ!」

 オレは猫に手を伸ばす。

 さすがに顎の下は、噛みつかれたら怖い。首の後ろから背中の毛を撫でる。


「うわぁ……。毛、滑らか……」

 言葉が滑り出ていた。タケさんは「そやろ!」と破顔する。

「トラ、今日からしばらく一緒に暮らす陽太や。仲良うするんやで」


 にゃーん。


 あくびのような眠たそうな声を出したトラは、もうサービスタイムは終わりとばかりに、尻尾を振り回す。

 邪険そうに手を振り払われたオレに、タケさんが声をかける。


「まぁ……猫っちゅうもんは、こんなやつや。気まぐれで。……そこが可愛らしいんやけどな」

 そして、よっこらしょと声を上げると、靴を脱いだ。


「陽太もはよ上がりや。荷物片付けんと、あっちゅう間に日が暮れてしまうけん。終わったらアイスでも食おか」

「アイス!? あっ……」


 つい、心の声が漏れてしまった。

 仕方ないだろ、こんなに暑いんだから。

 ジュースとかアイスとか、欲しくなるに決まっている。


 オレがこぼした本音に、タケさんはどこかホッとしたような表情を浮かべた。

 

「なら、()よ片付けよか。陽太の部屋はこっちに用意したけん」

 

 タケさんはひょいと荷物を持ち上げると、玄関の側の部屋に消えていった。

 と、思ったらひょこっと顔を覗かせて、早くしろと言わんばかりに手招きする。

 

「早よせんと、俺が荷物開けるけんな」

 そんなの、脅しだろう!

 見られてまずいものは入っていないけど、勝手に開けられるのは、たまったもんじゃない。

 

「ちょっと……! もう! お邪魔します!」 

 オレは靴を脱ぐと、慌ててタケさんの後を追ったのだった。

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