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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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1章 4

「みんなタケって呼ぶけん、そう呼べばええ」

 車に乗るなり、越智武史は気楽に喋ってくる。

 とはいえ、さすがに年上の人間を呼び捨てにするのは、はばかれた。

 

 本当は名字で呼びたかったけれど、どうやらこの辺りは、越智という家は多いらしい。

 仕方なくオレは、「タケさん」と呼ぶことにしたのだった。


 タケさんは、既に馴れ馴れしく「陽太」と呼んでくる。


「あと多い名字なんは、村上と河野(こうの)やな」

「村上と河野……?」

「そうや。有名な水軍の名字やな」

「水軍って、何でしたっけ?」

 オレの質問に、タケさんは驚いた表情を向けた。でもすぐに納得したかのように、頷く。


「海賊のことや」

 そう言ったタケさんは苦笑しながら呟いた。

「そりゃあ、知らんわな。東京の人間は」


 カチンときた。何だよ、この男は!

 ちょっと、ど忘れしていただけだったのに!

 いちいちイラつかせるような喋りをしてくるんだよ!

 

 でも言い返す元気は、もうオレには残っていなかった。


 タケさんは、静かになったオレを心配そうに見つめた。

 けど、何も言わない。


 そういうのが、一番気まずいんだよ!


 オレの心の叫びに気づかないタケさんは、信号で止まったタイミングで、ポンと頭を撫でてくる。


「安心しい。東京に比べて刺激は少ないかもしれんが、そこそこ楽しめるはずやけん」

「……頭、気軽に触らないでください」

 

 オレの抗議にタケさんは、

「すまんなぁ」

 と、朗らかに笑ったのだった。


 

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