13章 2
「本当にいいんですか? 車で連れていきますよ」
タケさんの言葉に、母さんは首を横に振った。
「ここまで送ってくださったので充分です。それに……」
母さんは、オレを見ながら続ける。
「陽太が実際に高専に入学するなら、一人で船に乗ることになります。ですので……」
「ああ、わかりました」
タケさんは納得したように頷いた。そして、オレの頭に手をポンッと置いて撫で回す。
「ちょっ……子ども扱い、すんなって!」
「陽太!」
タケさんの手をはらい除けたオレに、母さんは注意する。
タケさんはそんなこと、気にする様子もなく、再びガシガシとオレの頭を乱暴に撫でると、「よかったな」と笑った。
「お母さんと楽しんで来いや。ほんで冷静な目で、いいとこも悪いとこも、しっかり見て来い」
タケさんは気合いを入れるように、オレの頭をポンポンと二回タッチすると、再び母さんに向き合った。
「帰りの船、乗ったら連絡頂けますか? 迎えに来ますけん」
「そんなご迷惑を……」
遠慮する母さんに、オレは「いいんだよ」と胸を張る。
「タケさんがしたいんだから、させといたら。断った方がタケさん、傷つくんだから」
「生意気、言いよって」
タケさんが苦笑した。母さんは叱ることを忘れて、呆然としている。
オレが大人にエラそうに口をきいているのが、意外なのだろう。
オレだってタケさんと千尋以外には、絶対にこんな口調では話さない。
それくらいの線引きは出来る。
オレがわざとおちゃらけているのに気付いているタケさんは、母さんに笑いかけた。
「でも陽太の言う通りなんで。もし、ご負担やないようでしたら、足代わりに使ってもろてええんで。ついでに言うと、夕飯もご一緒出来たら、嬉しいですわ」
「そんな……そこまでしていただくなんて……」
恐縮している母さんに、オレは同じセリフを口にする。
「だーかーらー! タケさんは自分から、したいんだって!」
「こら、陽太」
今度、たしなめたのはタケさんだ。
「おふくろさんに、そないな口、利きなや」
そして、ポリポリと頭をかきつつ、母さんに告げた。
「とはいえ陽太の指摘通り、俺は自分の気ぃ進まんことは、出来ん人間ですけん。言葉通り、真っ直ぐに受け取って貰えれば、幸いです」
率直なタケさんに、母さんもやっと笑顔を見せた。
「なら、ご連絡しますね。私も陽太がこちらにお世話になっていた時のこと、伺いたいと思っていましたから」
母さんの頼みに、タケさんは複雑そうな顔をした。
「晩メシの間で、話、終わらせれると思うか、千尋?」
タイミングよく乗船券を買ってきた千尋に、タケさんは話を振った。
千尋はしばらく考えて、首を傾げる。
「さぁ、どうだろう? いっぱいあったからね、事件が」
「そやなぁ……」
思い出すように遠い目をするタケさんに、母さんが一気に不安げな表情になる。
「ちょっ! タケさん!? 千尋も!」
慌てるオレを見て、タケさんと千尋は顔を見合わせる。
そして、同時に噴き出した。
「か、からかったな!?」
「人聞き、悪いやんけ。ウソはついとらんやろ?」
オロオロとする母さんに、タケさんは笑みを向けた。
「陽太、色々出来よるんですよ。今晩のメインは、陽太が捌いた刺身にしようと思っとります」
「陽太が……? 魚、……捌く……?」
目を白黒させるって、こんな状態のことを言うんだな。
オレとタケさんたちを交互に見ながら、母さんは呆然としていた。
「ええ。陽太くん、色んなことに興味持ってくれたので、私たちも楽しかったです。そのあたりは、ぜひ帰って来てからにしましょう。そろそろ乗船しないと、出発しちゃう」
千尋はそう言うと、まだ混乱している母さんとオレを、船へと向かわせたのだった。




