12章 3
「進路として、愛媛の高専を考えている。そこに行くと、在学中に航海士の免許が取れるんだ」
オレの言葉対する父さんと母さんの反応は、正反対だった。
「……いいんじゃない?」
と、言ったのは母さんだった。オレは正直、意外だった。
だって、母さんは頑なに、自分の母校に入れることにこだわっていたから。
オレの顔を見た母さんは、困ったように笑った。
「陽太が自分で決めたなら、応援するわよ」
「じゃあ……なんで……」
今まで小学校受験や中学校受験をさせようとしたのか。
答えは単純だった。
「お母さんは、将来の選択肢を広げてあげたかっただけ。だって陽太は、譲っちゃうから。自分で決めるのが苦手でしょう?」
母さんの言葉に、オレはちょっとだけムッとした。
決めるのが苦手じゃない。こうしたい、って伝えても、「ダメ」って言われ続けてきたから、諦めていただけ。
でも。
もっと早くに「イヤだ」とか、「こうしたい」って素直に言えば、もしかしたら、母さんも受験を押し付けなかったんじゃないか。
後悔しても、過去は変えられない。
だけど、オレはこれからを変えに来たのだ。
今までのように、父さんや母さんの敷いたレールを走るのは、楽だ。
二人とも、それなりの地位も財力もある。言うとおりにしていたら、大きな失敗はせずに大人になれるだろう。
けどさ、オレはもう、親が敷いてくれる当たり前の道を歩むのは、イヤになったんだ。
だから、中学受験も辞めた。父さんと母さんも別々の道を歩み始めた。
約一月ぶりに会う父さんと母さんは、無理して家族を続けていた時よりも、スッキリしていた。
お互いに、結婚中に別々のパートナーを作った事実は、いいことではないだろう。
実際に、オレはそれで苦しんだし。
父さんも母さんも、オレに見せないところで少なからず、悲しむこともあっただろう。
オレたち家族は、分かっていなかったんだ。
いくら、血がつながっているとはいえ、全く違う人間なんだということを。
お互いを尊重しないといけないことを。
そのことをオレは、タケさんと千尋に教えられた。
「いい夏休みになったようね」
「うん」
応援してくれるように頷く母さんには、オレの気持ちは伝わっている。
問題は、父さんだ。
先ほどから、険しい顔をして腕組みをしている。
「父さん……は?」
「反対に決まっている」
間髪いれずに答えた父さんの返事は、予想通り、厳しいものだった。




