12章 2
「……行くぞ」
羽田空港に迎えにきた父さんは、相変わらず素っ気なかった。
振り向きもせず、スタスタと先を歩いていく。
松山空港で、タケさんと千尋に散々お節介をやかれ、ゲートをくぐってもオレの姿が見えなくなるまで、手を振って見送ってもらったのとは、雲泥の差だ。
それにしても。
東京は、人が多い。
一月前までは、ここがホームだったのに。部外者のような気がしてしまう。
なぜだろう、と考えて。すぐに答えは見つかった。
オレを見ないのだ、誰も。
以前はそれが当たり前だったし、居心地が良かったのに。
散々、タケさんと千尋、そして今治の町の人たちに気にかけてもらっていたオレにとっては、この空気が冷たく……いや、寂しく感じてしまう。
きっと前からオレは、見て欲しかったんだ。
父さんと母さんに、ありのままの自分を。
小学校受験を失敗しても。中学受験をしなくても。
なにも持っていない、山野陽太でいていいよ、と言ってほしかったのだ。
タケさんや千尋がしてくれたように、無条件で認めてほしかった。
とはいえ、オレは知っている。
いい学校に行かせることで、オレの将来は開けるのは事実だ。
母さんは痛いほど知っていたし、父さんだって内心は反対していたけれど、黙ってオレに投資してくれたのは、それが近道だと知っていたからだ。
父さんと母さんの愛情。それが、オレにそぐわなかっただけ。
なら、それをきちんと伝えないといけない。
「ねえ、父さん」
「なんだ?」
「あのさ、話があるんだ。父さんと……母さんに」
前を歩く父さんの背中が、ピクリと動いた。
「……母さんは家にいない」
「なら別々に伝える。父さん、今日は家にいてくれるんでしょ?」
「いや。仕事がある。……後でメール、しといてくれ」
いつもなら、わかった、と頷くところだ。けれど、今日は引き下がれなかった。
「大事な話なんだ。父さんと母さん、二人に面と向かって言わないと、ダメなんだ。……なんとか時間、取ってほしい」
オレの言い方に、やっと父さんは振り向いた。
空港内の通路のど真ん中。周りの人が迷惑そうに舌打ちをしながら、立ち止まっているオレたちを避けて歩いていく。
珍しく驚いた表情を浮かべる父さんは、なにかを勘づいたようだ。
おもむろに携帯を取り出すと、二回、電話をかけた。
一人は、自分の秘書に。
そして、もう一人は。
「今から行くぞ。世田谷の家に」
世田谷の家。つまり、母さんの実家だ。
すでに二人の離婚は成立している。
父さんにとっては、立ち寄りたくない場所、ナンバーワンのはず。
つまり……話を聞いてくれる……?
「あまり時間は取れない。簡潔に話すこと」
「はい!」
オレは父さんの気が変わらないように、急いで返事をしたのだった。




