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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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11章 4

 き、きつい。

 きつかった……。


 船酔いも、魚の生臭さも、早起きも。

 もちろん、簡単だなんて思っていなかったよ。

 けれど、想像以上にきつかった。 


 作業を終えたタケさんと共に、車に乗り込んだ時には、足がガクガクしていたくらいだ。


「……目指すもんやない、漁師なんて」

 タケさんが口を開いたのは、車が発進してすぐだった。

 その言葉だけは伝えないと、というタケさんの意地。

 なのに。


「……なんで、笑ってるのさ?」

 オレの指摘に、タケさんは、本当にびっくりした顔をこっちに向けた。

「えっ!?」

「ちょっ!! タケさん! 前見て! 運転!」

「おわっ!」


 慌ててタケさんが前を向く。

 幸いにも、昼前で交通量が少ない時間だった。

 事故ることはなかったけど、マジで焦った……。


「もう! タケさん!!」

「わ、悪かった……」


 しゅんとしながら、タケさんは運転に集中する。

 再びタケさんが口を開いたのは、信号待ちのタイミングだった。


「俺、笑っとったか?」

「うん、バッチリ」

 タケさんは、苦虫を噛みつぶしたような表情をする。

 なんで、そんな顔を、と思った時だった。


「……海は怖いぞ。俺の高校ん時の同級生、死んどんのや、実習中に」

 タケさんの突然の告白。

 でも、オレは驚かなかった。


 その姿を見たタケさんは、「知っとったんか」と呟いた。

「千尋……やな」

「うん」

「いつや?」

「学校、見に行った時」

「やっぱりか」


 息をついたタケさんは、何かを思いついたように左折した。

 家に帰るなら、真っ直ぐ車を走らせたらいいだけだ。


 どこに行くのか。

 問いかけようとして、オレは結局、口には出さなかった。


 どうせ、タケさんが連れて行く場所なんて、一つしかないんだから。

 

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