10章 4
「腹は空っぽで行けや。慣れとらんのやから」
忠告された通り、オレは空きっ腹のまま、タケさんの車に乗り込んだ。
漁港には、こんな時間にもかかわらず、多くの人が集まっていた。
「ちゃうわ。こんな時間やから、人がおるんや。昼間、来てみぃ? 閑散としとるで」
そう話しながら、タケさんは顔見知りの、漁師かな。
すれ違う人に挨拶を交わしていく。
オレも、タケさんの横で、ペコリと頭を下げる。
「タケ、今日は子守りつきか? 一人で大丈夫なんか?」
「まぁ、なんとかしますよ。柱にでも縛り付けときます」
苦笑しながら答えるタケさんに、オレは恐ろしくなって来る。
「怖なったんか? 港で待っとってもええぞ。俺もそっちの方が安心や……」
「怖くない! 行くし!」
タケさんの言葉に、オレは食い気味に答えた。
せっかくここまで来たのだ。置いて行かれたら、たまらない。
「……しゃーないな」
タケさんは、全然仕方なく聞こえない声で呟くと、自分の船にオレを乗せた。
ライフジャケットは、車から降りる前に着込んでいた。
それでも。
「こ、怖い……」
つい、声が漏れる。
だって、漁港だからライトはあるとはいえ、まだ夜明け前だ。
下は、真っ暗な海。
深さもわからない。落ちても助かるかどうかも見えないのだ。
そりゃあ、怖くて当たり前だろ?
「そうや。海は、怖いんや」
タケさんは、そういうと黙々と漁の準備を始めた。
タケさんは、さっきも言われていたが、一人で漁に出るタイプのようだ。
「釣り竿とかはないの?」
「俺は、網使って漁するからな。前の日に仕掛けとる網を回収して、そこに掛かった魚を捕る」
「そうなん……だ!?」
いきなり船が揺れた。
倒れそうになるオレの腕を、タケさんがガシッと掴んだ。
「船、動かすけん。こっちに来て、しっかり掴まっときや」
そういって、船の、運転席でいいんだっけ?
タケさんが座った横に、立つように指示される。
「俺は、操縦に集中するけんな。やけん、ほら……」
「なんだよ、これ?」
タケさんに渡されたのは、ビニール袋だった。
「ゲロ吐くなら、ここにせいや。……船、汚すなや」
「へ、平気だし! この間、一時間くらい船、乗ってる時も。千尋はヘロヘロだったけれど、オレは全然、酔わなかったんだぞ!」
オレの言い分に、タケさんは、「そうか」と呟いただけだった。




