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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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10章 強硬手段 1

 残念ながら、オープンキャンパスのタイミングではなかったから、行けるのは門の前まで。

 それでも、オレにとっては行く価値があった。


「あついねー」

 千尋は、今日何度目かのセリフを口にしつつ、首元を冷感タオルで冷やしていた。


 タケさんは、今日は仕事だ。お盆のさなかでも仕事があるのは、同情するけれど、今回だけは助かった。

 だって、今日行かないと、二日後には東京に帰ってしまうから。


 オレは、携帯で場所を確認しながら歩く、千尋の背中を見つめた。


 千尋は、暑さに弱いだけでなく、船にも弱かった。

「酔い止め、飲んでいるんだけどな……」

 そう言っていたけれど、船に乗っていた一時間。ずっとぐったりしていた。


 オレの希望を叶えるために、無茶をしてくれたのだ。

 本人に問いただしても、きっと「そんなことないよ」と返事されるのだろうけど。


 本当に、タケさんも、千尋も。


 お人好しすぎる。


「…………ありがと」


 小さく呟いた声なのに、千尋の耳にはバッチリと届いたようだ。


 ヘロヘロの顔をしながら、嬉しそうな顔をする千尋を見ると、タケさんが惚れた理由も、少しだけわかるような気がするのだった。


 ※


 港から徒歩で十五分ちょっと。


 お盆だからか、ほとんど誰も通らない道を、二人で歩いてたどり着いた場所は。


「大きい……」

「そうだね」

 千尋も初めて訪れた場所なのか。

 オレと同じく、学校を見上げていた。


 ぐるりと一周しよう、というオレの誘いは、千尋にあっさり却下された。

「さすがに、勘弁してほしいな。……もう限界なの」

 千尋がその場にしゃがみこむ気持ちもわかる。

 それくらい広い敷地だった。


 学校の裏には、海がある。

 というか、海に囲まれていた。


「島……なんだな」

「そうだね。それを言うと、四国も島だし。……もっというと、日本も全部島、だよね」

「そうか。島……」


 確かめるように呟いたオレに、千尋はもう一度、「島だね」と言った。


 そして、なにかを確かめるように、携帯を見ると、オレに笑いかけた。


「さて、そろそろかな。……一緒に怒られてね」

「え? なんの……」


 オレの声を打ち消すように、後ろからクラクションが鳴らされた。


 驚いて、飛び上がって。

 振り向いたオレの目に。


 見慣れたタケさんの車が、映ったのだった。

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