9章 4
コンコン、とドアをノックして、顔を覗かせたのは千尋だった。
「陽太くん、ちょっといい……? あっ……」
千尋が目を止めたのは、オレのパソコンの画面。
そこには、先ほどまで見ていた学校のサイトが、バーンと映っていた。
「……そういうこと、か」
いたずらっぽく笑う千尋に、オレは恥ずかしくなって目線をズラす。
その学校は船と海のことが学べる、高等専門学校だ。
愛媛県にある学校というのもあるけれど。
一番の魅力は、寮生活ができる、という点だ。
それに。
タケさんと千尋と一緒に住んでいる内に、気に入ってしまったのだ。
この県が。この町が。
そりゃあ東京に比べたら、刺激は少ないよ。
町全体がのんびりしているし、車がないと不便だし。
遊ぶところも限られているし、高校や大学の選択肢もグッと減る。
けどさ、あるんだよな、ここには。
オレが東京で見なかった、いや、見る余裕がなかった世界が。
自然ってこんなにも、きれいなんだって。
人間って、こんなにも暖かいんだって。
赤の他人に等しいオレでも、受け入れようとしてくれるこの町が。
離れがたくなるくらいには、気に入っていた。
「タケちゃん、頑固だからねー。きっと説明しても、折れないよ」
「……わかってる」
「じゃあさ」
千尋は、なにか企んでいるような、笑みを浮かべた。
「私と行こっか、そこに」
「へっ……?」
意外すぎる千尋の言葉に、オレはポカンとしてしまったのだった。




