表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海にいだかれて  作者: 雪本 風香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/76

9章 2

「ちょっと外、出てくるわ」

 タケさんが立ち上がったのは、電話を終えたすぐ後だった。

「わかった。……また海?」

 からかうような千尋の言葉に、硬かったタケさんの顔が少しだけ(やわ)らぐ。


「お見通しやな」

「これでもタケちゃんの一番の理解者を自認(じにん)していますから」

「自認じゃないわ。公認(こうにん)や」


 いつも通りの二人のやり取りに、オレはホッと息をついた。

 その音を聞いたタケさんは、くるりとオレの方を向いた。

「陽太も行くか?」

「え?」

「海。もう盆に入ったけん、泳がせんけどな」


 考えたのは、少しの間。


「迷惑じゃないなら……行きたい」

 オレの言葉に、タケさんは眉を上げて。

「迷惑なら誘わんわ。堂々と着いて来いや」


 タケさんのいつもの言い方。

 それが今のオレには、やけに沁みるのだった。


 ※


 タケさんが連れてきたのは、今まで行ったことのない場所だった。

「メジャーなところは、盆やけん、混んどるからな」


 来島海峡大橋くるしまかいきょうおおはしのふもとにある、小さな海岸。

 みんな、サンライズ糸山の方に上がっていくみたいで、海岸のほうには誰も居なかった。


 塁斗たちと行っていた海岸に比べて、狭い砂浜。だが、ぼーっとするには、ちょうどいい広さだった。


「海には入るなよ。盆やけんな」

「さっきも言っていたけれど。なんなの、それ?」

「知らんのか!?」


 タケさんはびっくりして、目を丸くする。


「よう言うやろ、盆に海入ると、ご先祖様があの世に連れて行くって」

「なんなの、その迷信(めいしん)

「迷信ちゃうわ! 塁斗たちやって、盆になったら海、入らんやろうが」

 そういえば。

 あれだけ毎日のように海で遊んでいたのに、お盆になると、誰かの家や、ショッピングセンターに場所が変わったのだ。

 お盆で、中々全員が集まらないから、そうなったと思っていたのに。


「そういうことだったんだ……」

「そうや。まぁ、迷信らしいけどな。ご先祖様うんぬんは。ただ、盆過ぎよると、海も変わるから当たっとるんやけどな」

 タケさんは、砂浜にごろりと寝転んだ。


「砂まみれになるよ」

「別にかまわん」

「陽にも焼ける」

「これ以上俺の体に、焼くようなところ、ないやろ」


 苦笑いするタケさんは、「あーあ」と大きな声を出した。


「すまんな。もっとうまいこと、努さんに言えたらよかったんやけど」

「いいって。それに父さん、基本的に身内の話、聞かないから」

「陽太は、それでええんか?」

「いいも悪いも。……それが普通だったから」

 ちらっとオレの方を見たタケさんは、何か言いたそうな顔をして。

 結局、飲み込むことにしたようだ。


 だけどさ。

 全然タケさんは、納得していないんだよ。

 大人なのに、憮然(ぶぜん)とした顔を隠すこともなく。

 黙って空を見上げているんだ。


 ちょうど夕方に向かっている時間だ。上を向いてもまぶしくはない。

 オレもタケさんの横に、寝っ転がってみた。


「……なんかあれば言うてこい。筋が(とお)っとることなら、味方したるけん」

「なんか、って?」

「なんでもええ」

「また父さんに、言い負かされても?」

 うっ、と言葉に詰まったタケさんだが、持ち直したようだ。


「勝ち負けやないやろ。全く知らんのと、知っとって触れんのなら、また意味合いが変わってくるけん。一回で努さんに伝わらんのなら、なんぼでも言うたるし」

 あの父さんだよ。そんなのが通用するかなぁ。

 全然イメージは、沸かなかったけれど。

「……そういうもの?」

「そんなもんや」


 タケさんが、自信満々に断言するから。


「わかった。なんかあったらタケさんに話する。……千尋にも」

 最後に付け加えた言葉に、タケさんは嬉しそうに、顔をクシャッとしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ