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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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9章 オレの居場所はどこだ 1

 父さんの言葉に、息を飲んだのは、一緒に聞いていたタケさんたちだった。

「努さんも、もっとオブラートに……。いや、オブラートに包んだとこで言うことは一緒か」

 タケさんは首を振った。


 タケさんは驚いているけれど、父さんはいつも直球だ。

 オレにも母さんにも、一切、気遣いはない。

 今日も、きっとズバズバ言われるのだろう。

 オレが聞きたくない、父さんの本音も含めて。


 とはいえ、訊ねないわけにはいかない。

 

「そうなんだ。んで、オレはどっちに引き取られるわけ?」

 軽いニュアンスで聞いたのは、心配させたくないからだ。

 父さんじゃない。

 そばにいるタケさんと千尋に、心配をかけたくなかったのだ。


『父さんだ。名字変えたくないんだろ?』

「……そっか。分かった」

 父さんは簡潔だ。オレもすぐに了解する。

 オロオロし出したのは、千尋だ。

 タケさんもどこか、ソワソワしている。


 本当に、二人は人がいい。

 だから、オレみたいなガキを父さんに押し付けられるんだよ。

 

『それでな。陽太』

 来た、と思った。

 オレは次の言葉に備えて、心構えをする。


『あそこまで広い家は必要ないだろう? 引っ越しをしよう』

「うん、わかった」

 軽いジャブ。重要なのは、この次だ。

『今、新しい部屋を借りる手続き中だ。ついでにハウスキーパーも。父さんは知っての通り、仕事が忙しいから、頻繁に家には帰れないから、家事はその人にやってもらえ』

「わか……」

 

「あんまりやないか! 努さん!?」


 オレの返事に被せるように、タケさんの大声が響いた。


「なんで陽太に寄り添った言い方、せんのや!? 機械に向かって喋っとんやないんやぞ! 相手は感情を持った、十二歳の子どもやんか! もっと、もっと、気ぃ遣えや!!」

『……暑苦しいな、武史。お節介なところは、死んだ親父にそっくりだ』

「そんな話、今しとらんやろ!? 陽太の気持ちはどうなんや、って言うとんや! まだ子どもや、陽太は!」

『十二歳だ。もう子どもじゃない』


 父さんの言葉に、タケさんは言葉は失った。

『武史は陽太を、ことさら子ども扱いするがな。十二歳は自分で判断できる年齢だ。東京では、な』

「なっ……」

「努さん」

 タケさんが()()()げないでいるタイミングで、千尋がそっと言葉を挟んだ。


「もう少し陽太くんの気持ちを、汲んでくれませんか」

『千尋もいるんだったな、そう言えば』

 父さんは今、思い出したように呟いた。

 千尋は「ええ」と答えると、話を続ける。

 

「確かに陽太くんはしっかりしていますが、ご両親の離婚に引っ越し。一気に環境が変わってしまうんです。タケちゃんも私も、それを心配していて……」

『お節介だ。それに、千尋が言えるのか? 東京で挫折(ざせつ)して田舎に逃げたお前に』

「努さん!」

 タケさんの咎める声。でも、千尋は気にしていないように笑った。

 

「努さんには、逃げているように映るかもしれませんが。私は満足していますよ、こっちの暮らし」

『言い訳だな』

「なんとでも。ですが、知っていてください。みんなが努さんみたいに強い人だけじゃないことを。そして、強い人でも心が弱る瞬間もある。陽太くんは(しん)がある子です。だから、ポッキリと折れてしまわないように、しばらくは寄り添ってほしいんです。それが私たちの……」

『もういいか? 武史、千尋。忙しいんだよ』


 千尋の言葉を(さえぎ)るような、父さんの声。

 武史と千尋が、ため息を漏らして首を左右も振るのと、父さんが続きを口にするのは、同時だった。


『陽太、分かったな?』

「はい」

『なら、予定通り、十八日に迎えに行かすから。……武史』

「……なんや、努さん」


 タケさんの声が硬いのは、先程のやり取りのせいだろう。

 もちろん、父さんはそんなの気にしない。

『悪いが、陽太が帰る日、松山空港まで送ってやってくれないか? 羽田空港には、誰か迎えの人間を行かせるから』

「努さ……! いや……。わかった」


 タケさんは、また大きな声を出しかけて。

 無駄だと悟ったように、首を振りながらしぶしぶ頷いた。

『悪いな。後で飛行機のチケットは陽太に送っておく。じゃあな』


 話すべきことが終わった父さんは、終わりとばかりに通話を切ったのだった。


 

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