表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海にいだかれて  作者: 雪本 風香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/76

8章 なんで今の仕事を選んだの? 1

翻訳家(ほんやくか)になったきっかけ?」


 オレが最初に訊ねたのは、千尋だった。

 なぜ千尋だったのかって?

 タケさんが仕事に行って、いなかったからだ。


「大学の時、アルバイトしていたの。翻訳を専門に(あつか)う会社で」

「なんで、そのバイトしてたの?」

「家から近かったから」


 そんな理由?

 オレの心を読んだかのように、千尋が喋った。


「私、両親が事故死していて、祖父母と暮らしていたんだ。……ああ、そんな顔しないで!」

 千尋がオロオロする。

「さすがに、もう昔のことだから! ね!」

「……ごめん」

 なぐさめてくる千尋に、自然に謝罪(しゃざい)のの言葉が口をついていた。


「いいよ。っていうか、本当に気にしないで」

 そう言うと千尋は、続きを話してもいい? と、目で問いかけてきた。

 オレが頷くのを確認すると、千尋はゆっくり口を開いた。


「大学の時、一人暮らししていたんだけど、急遽(きゅうきょ)実家に帰らないと行けなくなって。弟もいたし、奨学金(しょうがくきん)……って言ってもピンとこないよね。えっと、大学の費用を、一時的に借りていたの」

 奨学金の名前くらい、知っている! 内容はよくわかっていなかったけれど。

 知ったか、と思われるのがイヤで、オレは

「……そうなんだ」

 と、言うにとどめる。


 千尋はオレの様子を、気にしてはいない。

「そうなの」

 と、いつもの口調で答えた。


「で、実家から近かったのが、そのバイト先だったの。遅くまで会社がやっていたのも、助かったなぁ。私、理系だったから、終電で帰ってきたりしていたから」

「え!? 千尋、理系だったの!?」

「そうだよ」


 サラリと答えて、

「今の仕事と全然違うから。信じられないよね」

 と、笑った。


「生物系だから、陽太くんがイメージしている理系とは違うかもしれないけど。でも、実験とか研究はしたよ。……大学って卒業するために、何かを研究して論文(ろんぶん)を書かないといけないんだ。大学って四年なの、知ってる?」

「それくらい、知っている!」

 

 クワッと答えたオレに、今度は千尋が「ごめんね」と口にした。


「私がね、実家に戻ったのは、三年生の半ばだったんだ。卒業論文も書かないといけないし、アルバイトもしないといけない。そんな時、家から近くて遅くまで働けて。更に言うと、慣れてきたら、アルバイトでも在宅勤務してよかったんだ。もちろん、締切は厳守(げんしゅ)だけどね」


 茶目(ちゃめ)()混じりに話す千尋だが、大変さは伝わってくる。

 理系の大学生って、めっちゃ忙しいって聞くじゃん?

 どれだけ実家と大学が離れていたのかは、知らないけれどさ。

 ひとり暮らしが必要なくらいの環境だった、ってことだろ?

 もちろん、想像の範囲でしかないけどさ。


 簡単に頷いていいものなのかも、わからないまま、オレは黙る。

 千尋はオレのことを見つめたまま、続きを口にした。


「ありがたいことに、翻訳の仕事に向いていたみたいで。理系の知識を大学で身につけたこともプラスになって。アルバイト先の社長に誘われて、そのまま就職したんだ」

「へぇー。その会社だから、今治(こっち)でも仕事できるんだ」

「ううん」


 千尋は首を左右に振った。

「こっちに来る時に辞めて、今はフリーランスだよ」

「えっ!?」

 びっくりして声を上げたオレに、千尋は苦笑した。

「前の会社からの仕事の依頼もあるから、完全に独立している、とは言えないかもしれないけれど」

「いや……すげぇって……」


 呆然としているオレに、千尋は、

「今もそうだけど。大人になった後でも、色んな選択肢はあるんだよ」

 と、しみじみした声で呟いたのだった。 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ