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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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7章 2

「陽太、少し話、せんか? というか、したい」


 タケさんが、オレの部屋をノックしたのは、昼が過ぎた頃だった。

 あれだけ(いか)っていたからか、不思議と腹は減っていなかった。


 どれだけ頼まれても、ドアは開けるつもりはなかった。

「ドア、開けたくないんなら、ここで聞いてくれんか」

 そう食い下がられてたら、しぶしぶドアを開けざるを得ない。


「千尋は、いない?」

「居らん」

 返答を聞いて、オレはタケさんを招き入れた。


「話って、なに?」

 ついぶっきらぼうに言ってしまうのは、まだ怒りが収まらないからだ。

「聞いてほしいことがある」

「なに、さっきの言い訳?」

「事実を」


 ベッドに座るオレと向かい合うように、パソコンチェアを移動させたタケさんは、ゆっくりと口を開いた。


「千尋がさっき言っとったことやけど……」

「聞きたくない」

 バシッと言い切ったオレに、タケさんは厳しい顔を向けた。

「聞かんとダメや、陽太」

 珍しく威圧を感じさせるタケさんに、オレはつい頷いてしまった。


「結果だけ見れば不倫、と言われtも仕方ないけど。千尋は知らんかった」

「なにを、だよ?」

「相手がまだ結婚しとる、ということを」


 そう言われても、オレにとっては一緒だ。

 相手の家庭を壊したことに、変わりない。

 オレの家族をバラバラにした、父さんと母さんのパートナーと、なにも違わない。


 オレはなにも言わなかった。けれど、タケさんは察したようだ。


「千尋の事情やから、俺からあんまり言うことやない。やけど……」

 タケさんの顔が、苦しそうに歪んだ。


「相手の身内から……。階段から突き落とされ、腕と鎖骨の骨を折ったんや。それきり相手に会わん約束して……。仕事すら捨てて、こっちに来た人間や。(つぐな)いが必要なら、もう充分しとるやろ」

「……」


 オレは頷けなかった。

 どんな理由にしろ、一つの家庭を壊したのは事実だろ?

 タケさんは知らないんだ。


 不倫している人間が、どれほど家族を(かえり)みない状態なのかを。


 オレの(かたく)なな態度を見たタケさんは、大きく息を吐いた。 

 

「これ以上、過去のことで傷つかせたくない。俺からは、それだけや」


 本当に言いたいのは、それだけだったのだろう。

 タケさんは椅子から立ち上がって、部屋から出ていった。


 残されたオレは。


「なんなんだよ、全く……」


 オレはモヤモヤした気持ちを抱いたまま、ベッドに横になったのだった。

 

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