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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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7章 大人って汚すぎだろ! 1

「なぁ、タケさん」

「なんや、陽太」


 オレが、その話を切り出したのは、おんまくの翌々日だった。

 今日はタケさんが休みの日だった。


 三人で朝ごはんを食べて、タケさんが居間でテレビを見ているタイミング。

 千尋は、台所でトラにご飯を食べながら、首だけこちらに向けていた。

 

 オレは覚悟を決めて、話し出す。


「前にさ言っていたじゃん」

「何についてや?」

「オレがこっちに居座りたいなら、父さんに言ってくれるって」


 タケさんは、テレビを消して、ゆっくりとオレの方を向いた。


「なんや、こっちに居りたなったんか?」

「うん」

「なんでや?」

「こっちなら……、等身大のまま、過ごせるから」


 タケさんは何も言わずに、じっとオレを見据(みす)えていた。


 うっ。緊張する。

 審査(しんさ)するような視線にさらされて、オレは逃げ出したくなる。

 でも、ここは逃げちゃだめだ。


 オレは、目に力を入れて、タケさんを見返した。


 

「陽太くん、ダメだよ」


 沈黙(ちんもく)を破ったのは、千尋だった。

 いつの間にか、タケさんの隣に座っていた。


「なんでだよ!?」

 緊張も相まって、ギャッと言い返したオレに、千尋は静かに答えた。

「それは逃げ、だから」


 ぐぅ、と喉が鳴った。


「居心地いいよね、タケちゃんの傍は。わかるよ、私もそうだから」

 オレが喋らないことをいいことに、千尋は言葉を重ねる。


「タケちゃんは、陽太くんが望むなら受け入れてくれるよ。努さんにも言ってくれる。でもさ、ダメだよ」

「なんでだよ!? 千尋だって、タケさんのところに居候しているようなもんだろ!?」

「おい、陽太!」

「そうだよ」


 タケさんの静止を振り切り、千尋は淡々と告げた。


「今、タケちゃんが受け入れているから、恋人って関係だけど。それを取っ払ったら、私もただの居候。そういう意味では、陽太くんと一緒の立場だよ」

「じゃあ、なんで止めるんだよ!?」

「単純なことだよ。陽太くんがまだ、子どもだから」


 カチンと来た。いや、そんな表現は生ぬるい。

 怒り狂った。


「さんざん、対等に扱っていたくせに! なんで子ども扱いするんだよ!」

「子ども扱いじゃないよ。子どもだって言っているの」

「千尋!」


 さすがに、タケさんが止めに入る。

 でも、千尋は止まらない。


「もしさ、本当にこっちに居たいなら。タケちゃんよりも先に、言うべき相手がいるんじゃない? そういうところをすっ飛ばして、言いやすい人から言うのは、子どもが選ぶ方法だよ」


 千尋の言うことは、正論かもしれない。

 けど、納得出来るのかは話が別だ。


「言っていること、違うじゃねーかよ! 大人って、本当に汚いな!」

「そうだよ、大人って汚いんだよ」


 千尋は、冷静にオレの言葉を受け流した。

 

「それにさ、陽太くんは私と一緒に住める? これを聞いて」

「千尋! 言わんでええ!!」

 タケさんが、千尋の腕を掴んで静止しようとする。

 勢いで体が(かたむ)いた千尋は、タケさんの声が耳に届いていないかのように、オレにとって地雷ワードを発した。


「私ね、不倫してたの。だから、東京から逃げて来たんだ、ここに」

「千尋!!」


 バンッ!!


 タケさんの怒号と、オレがテーブルを叩いて立ち上がるのは、同時だった。


「……きたねぇ」

「うん、そうだね」

 答える千尋の表情は変わらない。

 苦しそうにしているのは、むしろタケさんの方だ。


「汚すぎる、大人って!」


 オレはそう叫んで。


 部屋に閉じこもったのだった。

  

 

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