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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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6章 4

 ごめん。


 塁斗たちに言うのは、そのひと言だけで充分だった。


 まだ子どもだけど、それなりに生きてきているのだ。

 気まずくしないためにどうすればいいのかは、わかってもいた。

 謝って、蒸し返さえしなければ、また楽しく過ごせる。


 その程度はできるくらいには、大人だった。


「なぁ、陽太」


 ステージで踊っている人を眺めている時だった。

 ふいに塁斗が、喋りかけてくる。

 オレは、大音量に負けないように、大きな声を出して答える。


「なんだよ、塁斗!」


 塁斗はためらいがちに、オレに問いかけた。


「いつまでこっちに居るんや?」

「えっ……」


 答えにつまったのは、オレの方だ。

 一気に現実に引き戻される。


 オレがいない間に、父さんと母さんは、離婚の話し合いをしているはずだ。

 次に会う時には、二人は離婚しているだろう。


「盆過ぎかな。オレも学校があるし……」

「そうなんか。おんまくが終わったら、すぐ盆休みになるけん。もう少ししか遊べんなるんは……寂しいな」 


 オレも寂しい。


 そう思ったのが、正直な感想だった。

 そのことに、オレは自分でもびっくりした。


 まだこっちに来て、二週間ちょっとなんだぞ。

 それなのに。

 寂しいって思うなんて。

 自分でも信じられなかった。


「また来るから。遊びに」


 気付いた時には、そんな言葉が口から出ていた。


 塁斗は驚いたように、こっちを向いて。


「そうやな。おれが東京に遊びに行ってもええしな」

「待ってる」


 オレの声に、塁斗は嬉しそうに頷いたのだった。


 ※


 夜の花火に備えて、一度家に帰ったオレは、自分の部屋に戻って、ゴロリと横になった。


 さっき、自分の口から出た「寂しい」というワード。

 意外すぎて自分自身、まだびっくりしていた。


 どちらかというと、きゅうくつに思っているのだ。こっちの生活を。


 東京みたいに、色々なものがあふれているわけじゃない。

 すぐにあちこち行けるわけじゃない。


 自然には満ちあふれているけれど。

 味付けは東京に比べて薄味(うすあじ)だけど、食べ物は新鮮でおいしい。


 なにより。


 オレはまだ、タケさんと千尋の元にいたかった。


「なんでだよ……」


 まだ会って大した日数が経っていないのに。


 少しでも父さんたちが迎えに来る日が、遅くなればいい。

 いつしかそう、願っていたのだった。

  

 

 

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