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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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6章 3ー②

「裏を返せば、それだけ人間関係が(みつ)や、ちゅうことや。いざとなれば、みんな助けてくれる。じいちゃんが()らんなった後でも、俺が漁師としてやってこれたのも、周りの人のおかげや」


 東京暮らしのオレには、いまいちピンとこないところもある。

 でも。

 ここに来てすぐ、友達ができたのは間違いなく。

 人付き合いが濃いからなのは、薄々察していた。

 

 だって、タケさんには子どもがいないんだぜ?

 なのに、オレと同級生の子どもを集めることができるし、それぞれの親との連絡先も把握しているんだ。

 それだけ、人付き合いが必要な地域なのだろう。 


「そういうもん?」

「そういうもんや」


 タケさんは、深く頷く。

 その様子を見たオレは、つい、訊ねてしまった。


「しんどくないの、それ」

 って。

 本当は、聞いちゃダメだったのかもしれない。

 けれど、このタイミングだから、聞きたかったことでもある。


「うーん、難しい質問やな」

 タケさんは(うな)った。腕を組み、考えこんだ末、ゆっくりと口を開いた。


「俺は、ずっとここに居るから、当たり前に思っとるところがある。家業(かぎょう)もあったしな」

「かぎょう?」

「代々受け継いできた仕事、ちゅう意味や」


 タケさんは、近くにあったメモに力強い字で、()()と書いた。

 漢字を見ると、納得した。


「さっきも言っていたもんね。ひいじいちゃんの代から漁師って」

「そうや。まぁ、親父は違うんやけど。家業があるのとないのでは、全然違うけん」

「なんで?」

「この辺は田舎やろ?」


 タケさんの言葉に、オレは頷いた。

 言われるまでもなく、田舎だ。不便な町である。

 それが居心地がいい面でもあり、悪い面でもある。


「ひと言でいうと、信用出来るか、っちゅうことや」

「信用?」

「そうや。四国は大きな島なんや。本州に比べて不便な場所なんは、事実やろ?」

「うん」

「そうしたら、やっぱり人の行き来は少なくなる。コミュニティが固定される、ちゅうんが、一番わかりやすいかもしれんな。やけん、よそ者が入ってくるんに、敏感(びんかん)なんや」

「へぇー」


 オレにはなかった観点(かんてん)だった。

 東京は色んな人間がいるし、居場所も一つじゃない。

 まだ義務教育中のオレだって、学校以外にも、塾や習い事、あとはゲームでつながっている友達がいる。


 だから、コミュニティが固定される、って言われても、理解しきれていない部分もある。


 けれど。


「じゃあ、なんで千尋と結婚しないんだよ? 紙切れ一枚で、千尋が地域に馴染(なじ)めるなら、そっちの方がいいんじゃないのかよ?」

「……痛いとこ、突いてくるな。陽太は」


 踏み込んだことを聞いたオレのことを、タケさんは怒らなかった。


 答えなくてもよかったはずなのに。タケさんは、オレに向き合ってくれた。

 寂しそうな顔を見せながらも、ポツリと呟いた。


「俺が千尋を……。そこまで惚れさせてない、ちゅうことや」

「お互いに、あんなに大事にしているのに?」


 少なくとも、オレの父さんと母さんよりも、ずっと仲がいいように見える。


「そういう問題やないんやろ」


 タケさんは、この話は終わり、とばかりに立ち上がった。 

 

「さて、そろそろ行くか」

「行くって、どこに?」

「決まっとるやろ?」


 タケさんはニヤリと笑って、

「塁斗たちのとこや」 

 と、言ったのだった。

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