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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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6章 3ー①

「んで、何があったんや?」


 詰所の椅子に座らせたタケさんは、オレにペットボトルの水を差し出しながら訊ねてくる。


「別に……」

「別に、や、ないやろうが」

 オレの言葉に呆れつつも、タケさんは問い詰めてくる。

「俺に言えんことか?」


 言えなくはない。が、言いたくない。だって、言えば間違いなく、タケさんは怒る。

 それにオレは知っているのだ。


 タケさんが、どれだけ千尋を大事にしているのかを。

 千尋も、不器用ながらも、気持ちを返していっているのを。


 二人が結婚しているとか、していないとか。

 そんなの、他人にはどうでもいいことだろ?


 それに、結婚していても、オレの両親のように離婚することだってあるんだ。

 二人が今、お互いを大事に思っている。

 それだけで充分じゃないのかよ!


 中々口を開かないオレを見たタケさんは、一つため息をつく。

 そして、携帯を見たかと思うと、口を開いた。


「俺と千尋の関係で、陽太が怒ることはないぞ?」

「な……!?」

 タケさんは、携帯の画面を見せてくる。そこには、秀樹という人からのメッセージが届いていた。


 タケと千尋ちゃんが結婚してないって、話していたらしいぞ。


 アイツら! 簡単に喋りやがって!

 この秀樹っていう人も、わざわざタケさんの耳に入れることないだろ!?

 黙っていれば、タケさんの耳に届かないんだから!


「優しいな、陽太は」

 突然のタケさんの言葉に、オレはギョッと目を()いた。


 優しい? オレが?

 混乱するオレに、タケさんは困ったように笑うと、口を開いた。


「ええ意味でも、悪い意味でも。このへんの人間はお節介やからな。とはいえ、俺もイマイチよう分かっとらんけど」

 返事に困る言い方じゃん。オレは何も答えられないまま、タケさんの言葉を待つ。


「田舎やけん、人との距離が近いんや。なんせ、俺やって、じいちゃんの(あと)()いで、十年以上になるんや。でもなぁ……」

「でも?」

「まだ、じいちゃんの孫の武史! って言われるんやぞ」


 十年だぜ?

 オレなんか、十年前っていったら二歳だ。

 そんなに長い年月なのに、今でも言われるなんて、すぐには信じられない。 

 

「マジ?」

「おう。それくらい、地域に根ざしとると言えば、良いよう聞こえるけんど。……ここいらの人間の世界は狭い。それがイヤで出ていく人間もおるくらいや」


 そうだろうな、というのが、正直な感想だ。

 だって。


「ずっとここに住んでいるんだよね、タケさんって」

「そうや」

「もしかして、子どもの頃の失敗とか、未だに言われたりする……?」

「当然や」

 

 半信半疑(はんしんはんぎ)で聞いたオレの言葉は、すぐに肯定(こうてい)されてしまった。


「さっき()った、秀樹のおふくろさんなんか、俺の子ども時代のこと、よう知っとるけんな。会う度に、『小さくて、よう泣きべそかいとった武史が、こんなに大きくなるなんて』と言われるぞ」

「うわっ……。やっば……」

「まぁ、そう言うなや」


 タケさんは苦笑した。


 

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