1章 3ー①
「武史、久しぶりだな」
「ご無沙汰しとります、努さん」
自動改札もないチンケな場所で駅員さんに切符を渡したオレたちを待っていたのは、デカくてガタイがいい大男だった。
すぐに父さんはその男の元に歩み寄り、簡単に言葉を交わしていた。
今日からオレは、この男の家に預けられる。
(気に食わない……)
こんな、田舎まで連れて来られて、初対面の男の家で暮らさないと行けないのだ。
電車酔いも相まって、オレは武史と呼ばれた男を、睨みつけた。
見られていることに気づいたのか、男はしゃがんでオレの目を覗き込んだ。
見た目のゴツさと違って、男は穏やかな、澄んだ目をしていた。
(な、何だよ……コイツは!?)
オレは、思わず後ずさる。
無遠慮に見てきやがって!
そんなので、オレが心を許すとでも思っているのか!?
ふん、と鼻を鳴らして視線を逸らしたオレに、男は苦笑しながら自己紹介をする。
「はじめまして。お父さんの従兄弟の越智武史や。よろしくな」
「……山野陽太」
そっぽ向きながら口先だけで答えたオレに、父さんは「こらっ」と短く叱る。
外では、良い父親のフリをする父さんが言うであろうセリフは、簡単に予想がついた。
「悪いな、武史。無愛想で」
ほらほら、やっぱり。オレだけが悪いように、言ってくる。
でも、父さんだって大概だ。
その証拠に。
「じゃあ、悪いけどそろそろ行くから。陽太のこと、任せた」
「えっ!? ちょっ!? 努さん!?」
慌てている男――もとい、越智武史を尻目に、父さんは先程の有人改札を再び通り抜けた。
父さんが松山駅で、自分の分だけ往復切符を買っていたのを、オレは見ていた。
預けたらすぐ帰るんだ、と思っていたオレの予想は大当たりだ。
父さんは振り返ることなく、ホームに続くエスカレーターを駆け上がっていく。
その背中は、やっかい者のオレの預け先が見つかってホッとした、と語っていた。




