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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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6章 2ー①

 その祭りは「おんまく」という名前がついていた。

 意味は「おもいっきり」という方言らしい。


「実際に使(つこ)うたことも、言うてる人も見たことないけどな」

 というのは、タケさんの(だん)である。

「まぁ、言葉通りの祭りや。みんなおもいっきり楽しんどる。やけん、楽しんで()いや」


 そう言いながら、オレに小遣いを握らせるタケさんだ。

「え? いいよ。お金持ってるし」


 内心、飛び上がるほどうれしいけれど、一度は遠慮(えんりょ)しとかないと。

 これはもらう側の礼儀である。

 タケさんはオレの予想した通り、

「子どもが遠慮せんでええわ。余っても返さんでええけん」

 と、笑う。


「なら……ありがとう!」

 オレは貰ったばかりの二千円を、サイフにしまった。

 これで食べたいものや、やりたいゲームを我慢しなくても出来る。

 

 早く祭りに行きたくて、ソワソワしているオレとは反対に、千尋はというと。

「お友達と一緒の方が、私と行くよりも楽しいよね」

 あからさまにホッとした表情を浮かべていた。


「千尋。一人やからって、部屋キンキンに冷やすなや。夜出かける時に、暑くて(たま)らんなるぞ?」

 タケさんがチクリと(くぎ)をさす。千尋は()ねたように唇をとがらせた。

 

「……わかっているよ」

 オレでも分かる。千尋が口先だけで、返事をしていることを。

 タケさんの表情が一瞬で変わった。ウソを見逃さないとでもいうような、鋭い目つきだ。

 

「ホントか? そんなに言うなら、時々、確認しに戻ってくるけんな」

「そんなことしなくても大丈夫だって!」


 そう言う千尋の目は、泳いでいる。

 ジトッと千尋を見下ろすタケさんは、さすがだ。

 どうすれば千尋が言うことを聞くのか、知っている。

 

「ホンマに気いつけや。俺の知らんところでぶっ倒れとったって、後から聞かされるんは、……堪らんけん」


 (かが)んで千尋の目をのぞきこみながら、話すタケさんの言葉は、無事伝わったようだ。

 

「うん、わかった。気をつける」

 今度は素直に頷いた恋人に、タケさんはホッと息を吐いた。


 堪らなくなるのは、オレの方だ。


「あーあ。朝っぱらから、見せつけてくれちゃって」


 オレの言葉に、ギョッとなった二人の反応は分かりやすい。


「ちょっ!? タケちゃんがあんなこと言うから!」

「普通の会話やけん! この程度なら、いつも話しとるやろうが!」


「はいはい、お熱いことで」

 心の中で呟いたつもりだったのに、声に出ていたようだ。


「こら、陽太! 大人をからかうなや!」


 言葉と同時に、鉄拳(てっけん)が飛んでくる。

 オレは、ヒラリとかわして。


「行ってきまーす!」


 と、出かけたのだった。 



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