6章 なんで籍入れてないんだっけ?1
「夏祭り?」
塁斗からその話を聞いたのは、溺れた翌日のことだった。
砂浜に寝っ転がって、オレは、ゼイゼイと息をしていた。
迎えに来た塁斗は、オレを案内するように先を行く。
それはいいが、ほとんど後ろを振り向かないのだ。
まだ道にも借りた自転車にも慣れていないオレは、ついていくのがやっと。
海についた時には、すでに疲れ果てていたオレに呆れつつも、塁斗は端っこにある日陰で、一緒に休息を取ってくれる。
連れ立って来た他のメンツは、とっくに海に入っているのにも関わらずだ。
塁斗は、面倒見がいい。タケさんに引けを取らないくらいに。
だからタケさんも、真っ先にオレと塁斗と引き合わせたのだろう。
塁斗はストレッチをしながら、もう一度同じセリフを口にした。
「そや。夏祭り。来週の土日や。ポスター見んかった?」
問われたオレは、ゆっくりと首を左右に振った。
「タケさんと車で行動していたからな」
苦し紛れの言い訳に過ぎないけれど、塁斗は納得したようだ。
「そうやったな。なら、見とらんのも当然かぁ」
のんびりとした口調で塁斗は呟くと
「一緒に行こうや」
と、軽く持ちかけて来た。
「え!? オレ!?」
「そうや。もしかして、誰かと約束しとった?」
「い、いや! 何も言われてないけど……」
「なら行こうや、みんなで。さすがに夜はマズいやろうけど、昼ならええやろ?」
即答出来なかったのは、オレが子どもだけで、大きな祭りに行ったことがないからだ。
近所の公園でやっている祭りは、友達と行ったことはある。
が、大きな祭りとなると人混みもすごいし、何より校則で禁止されていた。
受験する学校のオープンキャンパスならともかく。
わざわざ学校が休みの日に予定を合わせるだけで大変だし、何より高学年になると遊ぶよりも、習い事や塾が優先になる。
今治に来て遊び呆けている今が、オレにとってはイレギュラーなのだ。
「タケさんも青年団の一員やから、祭りの時は出ずっぱりやろうし。村上さんは昼間から祭りに来んやろ?」
「村上さん……? ああ、千尋のこと?」
誰のことだ、と一瞬わからなかった。
すぐに千尋のことだと気づいたが、違和感がある。
どこが不自然に感じたのか。オレが考え込む前に、塁斗が喋りかけてくる。
「なぁ、行こうや。当日迎えに行くから」
「う、うん。分かったよ」
タケさんたちに聞く前に、OKしてしまった。
そのことに罪悪感を覚えながらも、オレは塁斗に頷いたのだった。
※
「ええよ。夜やったらさすがに止めたけど、昼間なんやろ? それに塁斗がおるんなら、安心や」
報告を聞いたタケさんは、二つ返事でOKを出した。
オレはホッとする。
タケさんならこんなことで怒らないとは思っていたけれど。
勝手に友達と約束したことを叱られないか、ビクビクしていたのだ。
それを言うとタケさんは、呆れたような、同情するような表情を浮かべる。
「それくらい自分で決めたらええ。少なくとも俺は、陽太がした決断は尊重するけん。というか、素直に親の言うこと聞く年齢やないやろ」
「それって……バカにしてる?」
「いや。ただ、素直なガキやな、と思っただけや」
「ぜってー、バカにしてる!」
吹き出しながらタケさんは、オレの頭を撫でる。いや、押さえつけた。
「まあ、今は俺たちが、保護者代わりやけん。危ない時は止めるけどな。それ以外は好きにしたらええ。それにな……」
タケさんはオレにだけ聞こえるように、声をひそめた。
「陽太が友達と行ってくれると、助かるんや。千尋を夏の真っ昼間に、外に出したくない」
「なんで?」
同じくヒソヒソ声を出したオレに、タケさんは神妙に告げた。
「昔、この祭りに行った時に、熱中症で倒れたんや。実はな、陽太が行きたいと言い出したらどうしようかと、ヒヤヒヤしとった」
「過保護かよ!」
叫んだオレに、タケさんはどこか腑に落ちない表情を浮かべたのだった。




