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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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30/76

5章 3ー②

 ※


 砂浜で大量にスポーツドリンクを飲まされたオレは、行きと同じように助手席に乗り込んだ。

 車の中で、タケさんは喋らなかった。

 海からの帰り道は同じだ。

 今日は息がつまるくらい沈黙(ちんもく)が重いのは、オレの中に負い目があるからだろう。


 海をなめていた、という負い目が。


「あれ、早いね。どうしたの?」

 ガラリと玄関を開けたら、トラを抱っこした千尋がいた。

 千尋は基本的に用事がない限り、午後は二階のクーラーの部屋から出てこない。

 夕飯の買物にでも行こうとしていたのか、傍らにエコバックが置いてあった。

 

 千尋に話しかけられるのはウザったいのに、今は救いに感じる。

 オレが口を開く前に、タケさんはボソリと呟いた。

 

「溺れた」

「え!? 陽太くんが? それとも……タケちゃんが?」


 天然なのか、とぼけているのか。千尋の言葉に、どことなくピリピリしていたタケさんが脱力する。

「なんで俺が溺れるんや」

「だって……タケちゃん、ビショビショだから」

「そりゃあ……陽太助ける時に海に入ったけん」

 

 タケさんが千尋に頭が上がらないのは、この数日で理解しまくっている。 

 千尋もそれは分かっているのだろう。オレたちがまだ家に上がっていないことをいいことに、ニコリと微笑んだ。


「タケちゃんは家に上がらないで」

「え?」

「そのまま上がると()れちゃうから。タオルと着替えを取ってくるから、そのまま陽太くんとお風呂屋さん行ってきてね。言い訳は、あとでじっくり聞くから」

 

「ちょっ……ちひ……!?」

「帰りにお(ねぎ)も買ってきて。ね、タケちゃん? 陽太くん、自分の着替え用意してくれる?」


 矢継(やつ)()やに言うと、千尋はタケさんに背を向けた。

 パタパタと二階に上がっていく千尋の足音を聞きながら、オレはタケさんに声をかけた。


「ドンマイ、タケさん」

「…………誰のせいや」


 ジロッと睨みつけるタケさんは、いつもと違い、全然怖くなかった。

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