5章 2
「待たせたな、陽太」
仕事から戻ってくるなり、オレの頭を撫でたタケさんが連れて行ってくれたのは、やっぱり海だった。
「また海じゃん!」
「連れて来てもろて、文句言うなや」
呆れたように言うタケさんは、車から降りるように促してくる。
「他に遊ぶとこないのかよ!?」
「あるやないか、海が。目の前に」
「海しかねーじゃん」
「充分や」
ちなみに今日で、三日連続である。
タケさんは仕事でも海に行っているのに、暇さえあれば、海に来るのだ。
オレまで引き連れて。
「暑いじゃんか!」
「夏やからな。当たり前や」
「家にいればいいじゃん!」
さっきまで退屈だと、ゴロゴロしていたことは棚に上げる。
タケさんはオレを見ると、不思議そうに尋ねた。
「家におって何するん? やることなくて暇を持て余しとったと、聞いとるんやけど」
「何って……」
「もしかしてプールの方がええんか? なら明日は、そっち行こか」
「そういう問題じゃねーし!」
タケさんが頑なにオレをここに連れて来る理由は、分かっている。
オレと同年代の子どもが、遊んでいるからだ。
郊外のショッピングモールに行っても、もっと年齢の低い子どもばかりだ。
昼まで仕事のタケさんが休みの日以外は、遠出は出来ない。
海に行けば、誰かしら泳いでいる。
というか推測でしかないが、タケさんが声をかけているのだと思う。
クーラーボックスがパンパンになるくらい、お茶だのジュースだのつめ込んで、持ってきているのだから。
タケさんは顔が広いから、それくらい朝飯前だろう。
今だって。タケさんの顔を見た同年代の男子が、駆け寄って来ているのだから。
「陽太、今日も来れたんか、よかったな」
「塁斗!」
菅塁斗は、オレと同じ小学校六年生だ。
地元の少年野球のチームで、キャプテンを努めているだけあって、面倒見がいい。
今日も午前中は、野球の練習があったはずだ。その後、昼メシを食ってから、いつものように友達数人と海に来たようだ。
初めて連れられた時にタケさんに引き合わされてからずっと、オレは塁斗たちの仲間に入れてもらっている。
「陽太! 浮き輪忘れとる!!」
「いらねーって!」
いつもタケさんに言われるが、浮き輪なんてガキがつけるものだ。
オレはいつものように断って、波打ち際に走っていく。
タケさんは、無理強いはしなかった。
自分用に陽射しよけのテントを設置しながら、タケさんは声を張り上げる。
「塁斗ー! 陽太のこと、頼むけんなー!! 陽太ー!! 遊ぶんはええけど、海やけん気ぃ、抜くなやー!!」
オレの前を走る塁斗も、手を挙げてタケさんに答えた。
「タケさーん、りょーかーい!!」
面白くない。
「もう子どもじゃないし。そんなん頼まれなくたって……」
つい漏らしたグチに、塁斗は苦笑した。
「まぁ、そう言うなよ。タケさんも預かっとる以上、目、離せんのやろう」
ゆったりとした口調、で塁斗はオレを不満を受け止める。
ここの人間は、みんなおおらかだ。のんびり、と言いかえてもいい。
塁斗もまた、そんなタイプだった。
タケさんはおおらかではあるが、その実すごく心配性だ。
オレのことを、めちゃくちゃ子ども扱いしてくるし。
ここでは移動手段がないから、仕方なくタケさんと行動している。
東京だったら、一人でどこでも行けるのに。
「そんな不満気な顔、すんなや。心配される内が花や、ちゅうやん? それより、早よ泳ぎに行こや」
塁斗に手を引っ張られたオレは、しぶしぶだったけれど、不満な気持ちを忘れることにしたのだった。




