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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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5章 1ー②

 電車に乗ればどこでも自由に行けた東京とは違い、今治は車がないとびっくりするくらい、不便な土地だった。

 まず、駅から遠い。タケさんの家から今治駅に歩いて行くと三十分はかかる。

 オレも都会の人間だ。歩くのは慣れている。

 けれど、東京で三十分歩くのと、こっちで同じ時間歩くのは、ぜんぜん違う。

 歩いていても、楽しくないのだ。


 どこまでも真っ直ぐ続く、代わり()えしない風景。

 たまにランドマーク的な大きな建物があるが、ほとんどが二階建ての一戸建てだ。それもバカでかい。

 歩いている人がほとんどいないし、疲れた、暑いといって、フラリと立ち寄れるチェーン店やカフェもない。

 最低限、自転車がないと不便な土地であった。


 ということで、自転車がないオレは、自ずとタケさんや千尋に合わせて動かざるを得なかった。

 

 正直、めちゃめちゃ不便だった。

 父さんも母さんも働いていたから、小学校に入学した後は、基本一人で過ごしていた。

 そのことに慣れているオレにとっては、大変なことだった。

 誰かと生活のペースを合わせるのは、しんどいことではあったけれど、どこか新鮮でもあった。


 それに。

 心のどこかで嬉しい、という気持ちがあったのも事実だ。


 だって、少なくともタケさんも千尋も、オレのためだけに、時間を割いてくれるのだから。

 オレが意図していない遊びだとしても。


「もうすぐお昼だから、帰ってくるよ。待ち遠しいね、タケちゃんが戻ってくるの」


 心の内を読んだかのような千尋のセリフに、オレはくわっと()えた。

 

「子ども扱いすんなって!」


 こっちに来てから、口ぐせになったセリフ。

 もう十二歳。小学六年生を、子ども扱いするのは、タケさんと千尋くらいだ。


 いつものようにギャッと反抗(はんこう)するオレ。 

 その瞬間。

 タケさんの代わりに、トラが咎めるようにオレを(にら)みつけたのだった

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