5章 自然は恐ろしいけれど美しいもの 1ー①
「あー、退屈だ!」
居間でゴロンと寝っ転がるオレに千尋は苦笑する。
「東京に比べると、確かに物足りないよね」
今日、タケさんは仕事だ。家に一台しかない車は、タケさんが乗っているから、出かけようにも足がない。
千尋だけなら自転車で行くらしいが、居候のオレの分は、もちろん用意されていない。
そもそも夏に弱い千尋は、比較的涼しい午前中であっても、よっぽどのことがないと出かけない。
タケさんに言わせると、
「夏の日中に居間に降りてきよるだけで、奇跡的や」
らしい。
こういう気遣いも本来ならわずらわしいのだが、タケさんに頼まれているのだ。
「千尋がクーラーかけ過ぎたり、冷たいの食い過ぎんように、見といてくれんか?」
と。
油断したらガンガンに部屋を冷やすのだ、千尋は。
昔の家だし、海からの風が通り抜けるから、冷房がなくとも午前中は何とか過ごせる気温だ。
なのに、千尋はクーラーをガンガンにかける。
東京のようにクーラー熱や照り返しも少ないのに。
「汗かかんから、熱がこもるんや」
と、注意するが、千尋にはべらぼうに甘いタケさんである。
結局なし崩し的に、千尋の要望を聞いてしまうのだ。
「ねぇ、もう少し温度下げても……」
「ダメ」
何度目かの千尋の懇願に、オレは同じ答えを返す。
「今だって、室温二十度だ。充分涼しいから」
「もうひと息。パソコン使ってるし……ほら、熱で壊れちゃう」
「壊れねーよ、二十度じゃあ」
千尋に毒づきながら、オレはタケさんの帰りを待ちわびる。
千尋は、何というか独特だ。
父さんの浮気相手に似ているから、苦手意識はもちろんある。
けれど、それを差し引いても、なんていったらいいのか。
タケさんが分かりやすい分、千尋は掴みどころがないように見えるのだ。
オレだって別に、千尋の全てを知りたいとは思っていない。
面倒だから、出来れば知らないままの方が、ありがたいくらいだ。
けれどしばらくの間、一緒に寝起きしないといけない関係なのだ。
人柄が把握出来ないのは、なんとなく気持ちが落ち着かない。
とはいえ、気まずいのは事実である。
「タケさん、早く帰って来ないかな」
オレの言葉に、千尋は笑う。
「タケちゃんが聞いたら、喜ぶよ」
「ちげーし。退屈なんだよ!」
心からの叫びである。
宿題は終わっているし、自由研究は任意だ。
中学受験を辞めたから、ガリガリ勉強しなくても成績は問題はない。
だからこそ今治に行くのを、父さんも母さんもOKだしたのだ。
タケさん家にもインターネット回線も引いてあるが、古い家からか、オレのパソコンとの相性なのか。
時々Wi-Fiが、上手く接続出来ない。
有線の回線もあるし、用意してくれている部屋にも千尋のお古のパソコンが置いてあって、自由に使っていいとは言われている。
が、さすがに人のパソコンでプログラミングしたり、ゲームをするのは、憚れる。
そもそもゲームするには、パソコンのスペックも足りない。
とはいえ、家で暇を持て余してゴロゴロしているのも、しんどいのは事実である。
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