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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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4章 5ー③

 タケさんは、オレの後ろに立つと、そっと手を添えた。

「ほら、こうや。ここに手を添えて。こっちは指、内側に入れや」

 包丁を持たしたまま、オレの手を動かす。


「わわっ!」

「手、離すなや。そや、力を入れたまんまや」 

 

 包丁を動かしながら、そっと皮を引っ張る。

 タケさんのようにスムーズに、とはいかなかったが、サクの状態にすることは出来た。


「ここまで来たら、あとは簡単や。ほら、次はこっちや」

 タケさんは刺身包丁を、シンクのところから取り出して、まな板に置いた。

 出刃包丁とは違い、細身で刃が鋭い。


 ちょっと怖い。

「大丈夫や、さっきの要領でやればええ」

 今度は、タケさんの補助はないようだ。


 スッと横にズレたタケさんを、オレはジッと見つめた。

「そんなすがるような目で、()んでもよかろ」

 苦笑しながらタケさんは、包丁を指さした。


「さっきと要領は同じや。切れ味はこっちの方がええから、力入れすぎんようにな。手、切らんようにだけ、気をつけたらええ」

「って、言われても……」

「大丈夫や。真っ直ぐ包丁入れたらええだけや。見栄(みば)えを気にすんなら、ちょいななめに包丁入れたほうが、分厚(ぶあつ)なるけどな。まぁ、皮引くよりも、簡単や」


 タケさんは、そう言うけど。

 包丁を握ったのだって、ついさっきなんだぜ!?

 そんな簡単に、出来るわけないし!


「大丈夫や、陽太なら」


 オレの心を見透かすように、タケさんは断言する。


 くそっ。ズルいんだよな、タケさんって。

 今治(こっち)にいる時の保護者だ、って遠慮(えんりょ)なく叱り飛ばすくせに。

 変なところで、信頼してくれるっていうか、対等に扱ってくれるっていうか。


 でも、そんなところが、正直嬉しかったりするんだ。

 口が()けても、タケさんにはぜってー、言わないけどな!


「失敗しても、笑うなよ!」

「当たり前やろ」

 タケさんは、力強く言い切った。 


「陽太が一生懸命やったこと。誰も笑わんわ」

 

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