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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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4章 5ー②

 朝はそれぞれ、自由に。けど、抜くのはダメだ。叱られる。

 昼食は、正午前後。大抵は千尋と二人。タケさんが休みなら、三人で。

 晩ごはんは、午後六時。仏壇(ぶつだん)に炊き立てのご飯をお供えした後に、三人揃って「いただきます」をする。


 それが、タケさんちのルールだった。 


 意外だったのは、タケさんも料理ができること。


「千尋が来るまでは、一人暮らしやったんや。手の込んだもんは無理やけど、簡単なやつならな」

 というタケさんの料理は、オレからしたら相当(そうとう)レベルが高い。


 だって、当たり前のように、魚を(さば)けるんだぜ!?


「俺は漁師やぞ。魚、捌けんなんて、あり得んやろうが」

「そうかもしれないけどさ。父さんも母さんも、家で魚なんか、捌いていなかったぜ?」

「まぁ、人それぞれや」


 オレと話しながらも、タケさんは見事な手際(てぎわ)で魚をおろしていく。


 出刃(でば)包丁と呼ばれる、ぶっとい包丁で、うろこを取って、頭を落とす。その後、腹を割いて内蔵を取って。

 朝採(あさと)れの新鮮(しんせん)な魚だ。たいてい、刺身が用意される。

 

 今日のスズキという魚も、どうやら刺身にするようだ。

 腹の中の血を洗い流すと、スーッと、三枚におろしていく。


 惚れ惚れとする手つきだ。つい、みとれてしまう。


 あっという間に、三枚におろしたタケさんは、なぜか急にオレの方を向いた。

「皮、引いてみるか?」

「え!?」


 タケさんは、オレのためにスペースを空けた。

「やってみいや。ほら」

「いや……。いいって」

「何日もずっとオレのやっとること、見よんや。興味あるんやろ?」


 うっ。相変わらず、タケさんは鋭い。


 そりゃあ、興味はあるよ。

 一匹の魚が、スーパーに売ってあるような、サクの状態になるんだぜ?

 それが、自分で出来るなんて。

 ここに来るまで、知らなかったんだから。


 とはいえ、怖いのも事実だ。

 だって、オレは今まで、包丁を触ったことがない。

 

 家では、料理する暇があったら勉強、勉強だったし。調理実習は、女子が張り切ってくれた。

 

「やってみいや。それとも、怖いんか?」

  

 カッチーン!


 あー、腹が立つ!

 そんな言い方、しなくてもいいだろ!?


「怖くないし!」

 つい、ケンカごしに言い返す。オレはタケさんが空けた場所に立つと、包丁を握った。

「うっ……重い……」

出刃(でば)やしな。……なんや、包丁、持ったことないんか」



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