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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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4章 3ー②

「はぁー」

 ため息をついたオレに再度タケさんは眉を上げた。でも、タケさんが口を開く前に千尋が声を出す。

「さっ、食べよ。タケちゃん、ビール飲む?」

「……ん。あぁ」

「陽太くんにはジュースね」


 場をとりなすような千尋の声は、今は救いだ。

 オレは頷いて千尋からジュースを受け取ると、ようやく目の前の食事に目を向けた。


 やっぱりオレの予想は当たっていた。

 肉だ。それも焼肉。


 この世に焼肉キライな人間なんていないだろう。少なくとも、オレは大好物だ。

 

 それだけじゃない。

 刺身に天ぷら。焼き魚にサラダ。

 あと、これはなんだ? 


()()()や。いぎす豆腐(どうふ)

「いぎす豆腐?」

「この辺の郷土(きょうど)料理や。いぎす(そう)っちゅう海藻(かいそう)()でて、大豆粉(だいずこ)入れて固めるんや。エビのゆで汁を入れるんが、味をよくする決め手やな」

「独特の味だけど、クセになるよ」

 千尋が言い添える。 

「私は、ポン酢につけて食べるのが好きかな」 


 熱烈に推されるが、色も薄いごま豆腐みたいな見た目だし、磯臭(いそくさ)いというか、なんというか。

 とりあえず、あまり口にしたくないフォルムである。


 とはいえ。 

「……ご馳走じゃん」

 オレから漏れた声に、タケさんは相好を崩した。

 千尋も、ホッとした表情を浮かべる。


「そりゃあ、陽太の歓迎会やからな。ホントは昨日やってあげたかったんやけど、寝よったみたいやから、しゃーない」

「私たち、陽太くんが来てくれて嬉しいんだ。いつも二人だから」

 

 にゃーん。


 いつの間にか、トラが足元にいた。抗議の声を上げたトラに、千尋は「ごめん、ごめん」と謝って、刺身を一切れ、てのひらに乗せた。


「二人と一匹だね」

「トラも俺んちの一員やからな」

 タケさんは、オレに笑顔を向けた。


「陽太もしばらくは、俺んちの一員や。東京に比べると退屈かもしれんが、気ぃ遣わんと、(らく)に過ごしてくれや」

 千尋もニコニコしている。

  

 真っ直ぐに向き合ってくるタケさんと千尋に、オレはついイジワルなことを聞いてみる。


「そんなこと言っていいのかよ? オレが夏休み終わっても居座る、って言うかもしれねーぞ?」


 どうだ、困るだろう?

 そんな意図で聞いたのに。


「居りたいなら、おったらええ。なぁ、千尋?」

「うん。学校のことがあるから、ご両親に相談は必要だけど」

「なんや、居りたいんか? 本気なら努さんに、相談してみるけん」 

 

 あっさりとOKした上に、父さんに相談するとのたまってくるタケさんに……。


「ほ、ほ、本気のわけ、ねーだろ!!」

 オレの言葉に、二人はまた顔を見合わせて。


「なーんや」

「残念だね、タケちゃん」


 心の底から、さみしいと思っているようなニュアンスで、呟いたのだった。 

  

 

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