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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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4章 3ー①

 さて、問題はこのあとだ。


 あの後、タケさんはすぐに切り替えていたが、困るのはオレの方だ。

 なんてったって、目の前でイチャイチャしている姿を見せつけられたんだぞ?

 気まずいに決まっている。

 

「夕飯の時間になったら、呼ぶけん」


 そそくさと部屋に引っ込もうとするオレに、タケさんはわざわざ声をかけてくる。


 ほっといてくれ!

 というか、むしろほっとかれたい!


 もちろん、オレはそんなことを言えるわけもなく。

 強硬手段(きょうこうしゅだん)を取ることにしたのだった。


 ※


「陽太、メシ出来たぞ?」


 ノックして、部屋のドアを空けたタケさんに背を向けたまま、オレは答えた。


「いらない」

「なんでや?」


 そんなの、言えるわけないだろ。

 気を遣うから、一緒にメシ食いたくないなんて。

 

 それに、オレはひとり飯に慣れている。

 父さん母さんと一緒にご飯を食べたのも、正月?

 いや、正月は母さんの実家で、針のむしろになりながら正月料理を食べたのだ。

 母さんの実家だから、高級なものが出てきていたのに、全く味がしなかった。

 

 三人でご飯を食べたのは、いつだったかな。

 振り返って見ても、すぐに思い出せないくらい昔のことだ。


 でも、そんなことダイレクトに言うわけにはいかない。

 クルリと椅子を回して、タケさんを見上げて。

 

「今、お腹空いていないから、後で食べる……」

 ぐうー。


 な、な、なんていうタイミングだ!

 言い訳している最中に、腹が音を立てるなんて!


 原因はわかっているんだ!

 開けたドアから、めっちゃいい匂いがするんだよ!

 肉を焼く、いい匂いが。

 

 オレの腹の音は、目の前のタケさんにも聞こえていたようで、目が吊り上がっている。

「陽太?」

「い、今いらないから!」

「嘘つけ」


 タケさんは、言いながらオレを追い詰める。後ろに歩いている背中にドンッ、と壁がぶつかった。

 とうとう逃げ場を失ったオレの前には、タケさん。


「あ、あの……タ、タケ……さん?」

「嘘つくガキは、こうや!」


 ガバっと担ぎ上げられた。


「ちょっ!? タケさん!?」

「暴れるなや! ったく。()よせんと、千尋の作ったご飯が冷めるやろうが」

 タケさんは短い廊下なのに早足で歩き、あっという間にオレを台所まで連行する。


 引き戸のところをぶつからないように、少しだけ屈んでくぐったタケさんは、ようやくオレを降ろした。

「陽太の席はそこな」

 タケさんと千尋に挟まれるような席。


 き、気まず過ぎるだろ!

 逃げ出したくてうっ、となるが、入り口にはタケさんがデンっと立っている。

 観念して、座るしかない。



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