1章 1ー②
「陽太、夏休みの間、父さんの田舎に行ってみないか? 父さんの従兄弟から遊びに来たら、と言われているんだ」
そう切り出されたのは、GW明け。
珍しく、父さんと母さん、二人揃ってオレの前に座っていた。
だから、勘違いしてしまった。
オレの一言で、父さんと母さんは離婚するのを、踏み止まってくれたのだと。
「え? 家族旅行!? 行く行……く……?」
はしゃいだ声は、すぐに萎んだ。
何故なら、父さんと母さんが、引きつったような笑みを浮かべていたのだから。
イヤな予感がビンビンする。
けど、オレは尋ねないわけには、いかない。
「え? みんなで行くんだよね?」
「いや、陽太だけだ。父さんたちは仕事がある」
「え? ならオレも行かない」
「陽ちゃん!」
母さんの咎める声。その瞬間悟ってしまった。
「離婚の話する時に、オレがいたら邪魔なんだ」
「そんなこと……」
母さんが何か言おうとするが、先が続かない。そうだよ、と認めているようなものだ。
どれくらい、黙りこくっていたのだろう。
「……いいよ」
オレは泣きそうになるのをこらえて、呟いた。
「行くよ、そこに。何日くらい、行けばいいの?」
「そうか! よかった」
ホッとした表情の父さんは、衝撃の事実を告げた。
「武史がな……、ああ、父さんの従兄弟なんだけど。せっかく来るなら、盆過ぎるまで居たらどうか、って言っててな。どうだ、陽太?」
確認のようで、既に決定事項。それくらい分かるさ。もう子どもじゃないんだから。
「分かった」
これで話は終わり。安心した表情をした父さんと母さんに、オレは爆弾を落とした。
「けど、二つ頼みたいことがあるんだ。聞いてくれる?」
父さんと母さんの顔が引きつる。どんな難題が出されるのか、ドキドキしているのだ。
それくらい、嫌でも分かるよ。だって、親子なんだもん。
でもオレは、敢えてぶっきらぼうに。投げやりに聞こえるように、言い捨てた。
「オレは山野の名字は変えたくない。あと大学は出たいから、塾代とか大学の費用は出してよ」
もちろん強がりだ。でも父さんと母さんは、今のオレの状況をよく知らなかった。
自分でいうのもおかしいけれど、オレはお年頃。
俗にいう、反抗期ってやつだ。
まだまだ父さんと母さんに甘えたいし、暮らしたい。
素直になれないだけで、父さんと母さんと一緒に過ごしたいと願っていることを。
でも、オレの気持ちは、二人には届かない。
「そう! わかったわ。その辺も踏まえて、お父さんと話すね!」
「……うん。あの…………勉強あるから」
母さんのホッとした声を聞いたオレは、逃げるようにこの場から立ち去ると。
二人に聞こえないように、布団に突っ伏して、わんわんと泣いたのだった。




