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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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1章 こんなとこなんて知らないぜ! 1ー①

 羽田空港から松山空港まで、一時間半。

 そこから、伊予鉄という市電に乗り換えて、JR松山駅まで移動した後、特急しおかぜに揺られて、約四十分。


 ようやく目的地についたオレ、山野陽太(やまのようた)が発した第一声は……。

  

「ド、ド田舎じゃん!!」


 それも半分寂れているような、絵に描いたような駅。


 その証拠にオレたち以外、この駅で下車した人はいなかった。

 隣に立っていたはずの父さんは、いつの間にか階段を降りていた。


 だからオレの叫びは、誰にもツッコまれることなく。

 

 なんて読むのか知ったばかりの、今治いまばり駅のホームに、むなしく消えていったのだった。


 ※ 


 十二歳。小学六年生のオレにとって、夏休みはとっても重要だ。

 なんてたって、小学校最後の夏休みなのだ。

 友達とも遊んで思い出をいっぱい作りたいし、勉強もしないといけない。

 夏休みの自由研究だってある。


 なのに今。

 オレは東京から遠く離れた、今治という町にいた。

 初めて来た町。最初はなんて読むのか、分からなかったくらいだ。

 そもそも愛媛って、東京から見ると遠すぎる。

 

 もちろん、知識としては知っているよ。

 学校の授業でも、都道府県は全部覚えさせられたくらいだし、何より少し前までオレは中学受験のための塾も通っていたのだ。

 

 四国の中の県で、温暖な気候。

 瀬戸内海に面していて、柑橘類の生産や、真珠、鯛の養殖でも有名だ。

 広島県の尾道市と、愛媛県の今治市を結ぶ「しまなみ海道」は、サイクリングのメッカとなっていること。


 教科書に書いていることは、簡単に答えられる。

 まぁ、縁もゆかりも全く無い、とは言い切れないけれど。 

 何故なら、父さんの父さん、つまりオレのじいちゃんがこの町の生まれだからだ。

 

 でも、それだけ。

 じいちゃんは、中学校卒業してから、なんて言ったっけ?

 そうそう、集団就職で上京してから、ずっと東京に住んでいた。

 一人娘だったばあちゃんちの名字を継いだじいちゃんは、愛媛出身ということを自分から進んで口にしなかったし、オレも本籍がそっちにあるということは知っているだけ。

 田舎がそっちにあるだけで、じいちゃんのところイコール東京という認識だった。


 父さんは子どもの頃、何度か来たことはあるらしいけれど、オレには無関係の町。


 そう思っていたのに。


「父さんと母さんが、離婚の話し合いするだけなのに。なんで、こんな田舎に連れてこられないといけないんだよ……」

 

 オレは大きく息を吐いた。

  

 確かに、切り出したのはオレだ。仮面夫婦だった父さんたちに、

「離婚してもいいよ」

 って、言い出したのは、オレだ。


 けどさ!

 まさか、家から追い出されるとは、思わないじゃん?

 



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