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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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4章 1ー②

 ※


「おおやま……なんて読むの、これ」

大山祇神社(おおやまずみじんじゃ)や」

 車を止めて、スタスタと歩くタケさんに遅れないように、小走りでついていったオレは、言葉を失った。


「なに、これ……」

「すごいやろ」

 ドヤ顔をするタケさんの横で、オレは首を縦に振った。


 境内(けいだい)をくぐったオレの目に飛び込んできたのは、大きな大きな木だったのだ。


「ここのご神木(しんぼく)や。樹齢(じゅれい)は、どれくらいやったかな」

 タケさんは、近づいて案内板を確認すると、オレを手招きする。

「二千六百年やて。ほら、ここに書いとるわ」


 オレはそっと近寄っていく。圧倒されるほどデカいご神木に近づくにつれ、不思議なことに体がスーッと軽くなる。

 霊感もないし、むしろそういう現象は、嫌悪(けんお)しているくらいなのに。


「久しぶりに、来たけど。ここにおったら、雑念(ざつねん)()うなって、気持ちが()んでくるなぁ」

 横でタケさんが大きく伸びをした。

 

「知っとるか」 

「何を、だよ?」

「このご神木の周りを三周、願い事を考えながら、息を止めて回ると、叶うらしい」

「知るかよ、初めて来た場所だぞ」

「それもそうか」

 オレの言葉にタケさんは笑いながら、尋ねた。


「んで、陽太なら何を願う?」

「え……?」

 口元に笑みを浮かべてはいるが、目は真剣そのものだ。

 生半可な返事なら納得しないだろう。オレは考えこんだ。


 願いなら、一つだけある。


 父さんと母さんが、元のように仲良しに戻って、また三人で楽しく暮らすこと。


 でも、それはもう望めないことだから。代わりに。


「幸せを……」

「ん?」 

「父さんと母さんにこの先、沢山の幸せが訪れますように、かな。だって二人は今まで、オレが居たから無理して夫婦していたんだから」

「……陽太」

「やだな、タケさん。そんな顔しないでよ。……離婚には納得しているんだから」


 強がりだ。タケさんにも、それは伝わっているはずだ。

 でも、タケさんは「そうか」と頷いた。そして。


「なら俺は、陽太と千尋が幸せになるように願掛けするか」


 嬉しい。嬉しいのに。

 やっぱりオレはまだまだ、タケさん相手に素直になれない。



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