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海にいだかれて  作者: 雪本 風香


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3章 2ー①

 気づいたら寝ていたみたいだ。


「腹、減った……」


 もそもそベッドから起き上がって、スマートフォンで時間を見ると午前三時の少し前――二時五十分を指していた。


「そりゃあ、腹も減るか」

 鍵はかけていたはずなのに、いつの間にかクーラーがついていた。

 どうやら寝苦しくて、無意識につけていたようだ。

 枕元には、クーラーのリモコンが落ちていた。


「ヤバ……。喉、カラカラだ……」

 

 カバンを漁るが、持ってきていたペットボトルのお茶は全て飲み干している。

 トイレにも行きたい。

 なら、部屋を出るしかない。


「さすがにこんな時間だ。起きていないか」


 それでもオレは、極力音を立てないように、ドアのところの本をどけて、そっと扉を開いた。

 パッと飛び込んできた明かりに、ギョッとなる。

 すぐに外灯だと気付いたオレは、ホッと胸をなで下ろした。


「なんだよ……。驚かすなって」


 ――すまんな。この部屋しか、一階の個室はクーラーがないんや。


 タケさんが謝る理由が、聞いた時には分からなかったけれど、今は納得だ。

 

「この部屋だったら、朝遅くまで寝れないじゃん」


 タケさんと千尋が、普段何時に起きているか知らないけれど、絶対にオレよりは早いはずだ。

 部屋の前でガタガタされたら、さすがにオレだって目が覚めてしまう。


「最悪……」

 

 オレはグチグチ言いながら、トイレに向かう。

 物音一つしないところを見ると、どうやらタケさんと千尋は、二階で寝ているようだ。

 この家のすべての部屋を知っているわけじゃないから、憶測(おくそく)だけど、二人が同じ階にいないことにホッとする。


 それでもまだ夜中と言っていい時間だ。

 急いで用を足し、台所に向かったオレは、入口にある電気じゃなくて、奥にあるガスコンロの上を照らす蛍光灯のスイッチを入れた。

 こっちの方が、漏れる明かりは少ないはずだ。

 

 この家には、キッチンというオシャレなものはない。

 昔ながらの台所、という言葉がぴったりの、独立した場所。

 マンション暮らしのオレにとっては、リビングと一体型じゃない台所は、不便だと思っていたけれど。


「これはこれで、アリだな」


 台所にはテーブルも置いてある。引き戸を閉めたら、誰にも気を遣うことなく、ご飯を食べることが出来る。

 今、オレが水を求めて来ているみたいに。

 

 と、なると。

「いちいちご飯を一緒に取らなくて、いいじゃん!」


 名案だ。

 東京の家でも、ひとり飯が当たり前だったのだ。

 給食でもないのに、誰かと時間を合わせて一緒に食べるなんて、気が重くて仕方なかったのだ。

 こっちにいる間だけだったら、三食とも、コンビニ飯でも、カップ麺でも構わない。


 そこまで考えた瞬間、オレはあることに気付いてしまった。


 東京に戻ったら当然のように、母さんの手料理が食べられると思っている自分に。


「もう、食べれないかもしれない。母さんの手料理は……」

 しんみりと呟いた時だった。

「何でや?」

 バチンと、台所の電気がつけられる。現れたのは。


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