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怨鎖 ~蟲獄~  作者: 玉部×字
其の七 怨霊と陰陽

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27/30

参 怨霊と怨霊と怨霊


 一七かずなと呼ばれた巫女は首筋、すんでの所まで光の剣が迫って来ても動かない。


「くそっ!」


 芳賀はがは周り込んで俺を狙う。

 だが、一七かずなはそれにもついて行き俺の前に塞がる。

 ただの娘が出来る動きではない。いや、出来ていない。

 足から、手から、ブチと筋肉と腱の切れる音がする。

 だというのに、芳賀はがに縋る動きで俺を守っていた。


「どうなって――いっ?!」

「なんだ?!」


 上から塊が振って来た――人だ。

 坊主頭のデカい身体、二三人ふみとと呼ばれていた奴だろう。


 一七かずなが前を二三人ふみとが後ろを、俺を囲むように守る。剣を振ればどうあがいても切り裂く他ない。

 打つ手のない芳賀はがは奥歯を噛んで下がった。


「どうなってる! 二瓶にへい、結界解いてんじゃ――」

「違うっ。そんなことするか」

「じゃあ、なんだってんだ!」

「結界の上からしゅを掛けられてる」


 しゅ――その言葉に呼応して、俺の背後から声がした。


のろいなんて酷ーい」


 女の声。後ろを振り向くと二三人ふみとの背後から、人が現れた。


「この子たちはサラに共感してくれただけだし? ねぇいい子いい子」


 自らをサラと呼ぶ金髪の黒いミニの浴衣の黒い肌の女。

 ギャルっぽい――一七かずな二三人ふみとの頭を撫でる仕草も馬鹿っぽい。


 そんな女居なかったはずだ。

 二三人ふみとの背から出て来た、それは確かだが。

 どこから入ったのか。

 いつから居たのか。

 まったく気付かないことがあるのだろうか。


「馬鹿なっ、どこから?!」

「やだら好ぎ勝手やられだな」

「ちっ、まだ来るかよ」


 奇しくも同じ感想だった。

 サラの後ろから、やはりさっきと同じように婆が現れた。

 背の低い、黒い袴姿の婆だ。

 だが、幾ら小さいといってもサラの後ろにずっと見えないように隠れていたように思えない。少しくらいは見えたはず。

 なのにまるで、角を曲がって来たかのように90度回りながら現れた。


「ちょ、デン婆。言葉言葉。遠いとこなんだから。もっと聞きやすいのにして?」

「ったく。あ、あ、あ――これでいいか。ったく調子でんわ」

「おい、そこの婆! お前、何者だ! そこの女も俺の結界の外からどうやっ――」

「あ? ちと黙っとれ。こいつに話がある」


 俺を見下ろす目は黒い。

 蟲ではない、だが黒すぎる。ドス黒い。

 人であるが人ではない目、恐らくは俺と同じ――


「っだと?! そいつの仲間か」

「あ? 違うし? 見てりゃ初対面って分かるっしょ? 馬鹿なの?」

「っっっ! 誰が馬鹿だっ。この馬鹿!」

「はあ? 馬鹿っていったほうが馬鹿だし」

「じゃあ手前が馬鹿だろうがっ! 馬鹿が」

「あーいった、今馬鹿って言ったー。はい、あんた馬鹿ぁ!」

「この野郎っ!」

「女ですぅー見て分からないし? やっぱ馬鹿じゃん?」


 指差し合って馬鹿馬鹿と言うサラと二瓶にへい

 まったく空気感が違う。


「黙れっ!」

「黙らんかっ」


 婆と芳賀はがが同時に一喝。

 ただ少し声を張り上げただけなのに、痛いほど響く。

 双方の力の強さ――震えるほどだった。


「ったく、ぎゃーぎゃー五月蠅いわ。ちと話があると言ったろうが。全員黙っとれ」

「勝手な――怨霊風情が」

「構うな、二瓶にへい。結界に集中しろ。これ以上一般人を使わせるな」

「分かってる」

「はっ、馬鹿の仮面が剥がれかかっておるぞ。陰陽師、若いのう。赤が泣くぞ?」


 そうデン婆が言うと、芳賀はがの顔から笑みが消えた。

 見下すような余裕が消えた。

 言った通り仮面を外したように、表情がすっと消えた。


「馬鹿の仮面?」

「ああ、馬鹿は怨めんからのう」

「怨めない?」

「だって馬鹿って憎めないキャラじゃん? 愛され系つか?」

「そんなものを演じて何になるんだ」

「更に同情もしたろう? そして理解も。怨霊はそれに弱い。何せ辛い境遇で最期を迎えなければ怨霊に落ちんからの。分かってくれるものが居たら――ならんからの」

「だからそれが何に――」

「怨めない。怨むから怨霊だ。怨まねば力も発揮出来ない。だからお主は力が出ん。分かるか? それが手、奴らの手法、我ら怨霊を祓わんとする時の手管だ。言葉から所作まで全て術。それが陰陽師よ」


 何かがかみ合った気がした。

 確かに奴は馬鹿で強い。

 国家資格の一種を持つにはおかしい馬鹿さ。陰陽師の資格といえど何かしらの勉強は必要だろう。

 それに俺に同情と理解をしているのも変だ。

 それならもっと――目が暖かくあるべき。見下さないべき。

 同じ目線に立つから同情なのだから。


「詳しいな婆ぁ――二瓶にへい。命令は変更だ。一般人はどうでもいい。婆の怨霊はここで滅ぼす。逃がさない結界にしろ」

「――了解」

「おい、俺はっ! 俺は守る――んだよな? 当主だぞ。俺が居なきゃここじゃ――おい! 聞いてんのか、おいっ! 守れ、守ってよ。ねぇっ!」


 芳賀はがは無視を決め込む。いや恐らく端から視界にも入れてなかった。

 喚く幾人いくひとを無視して、二瓶にへいは懐から札を取り出す。芳賀はがは黄色い鬼の面を取り出し被る。

 今度は本気ということだろう。

 つまり、俺なんかに本気で向かってなかった。

 同情も、理解もポーズですらありはしなかった。

 だというのに俺は――幾人いくひとを諦めんとしていた。


 そう思うと、何か、腹が熱くなってきた。


「なるほど術か――ふははっ、ムカついて笑えて来たよ」

「違うわっ! 怒ってなんとする。怒りは前に進まんとし、上へ押し上げる力。だが我らは荒魂あらみたまの如く高尚な存在ではない。上を見て羨め、引きずり落とさんと目論め。我ら世を儚み祟り怨みて、獄界ごくかいにすら辿り着けなかった寄る辺なき存在――怨霊ぞ」

「怨霊――ね」

「そうだ。必要なのは怨みのみ。それだけが我らに力をもたらす」


 芳賀はがはこちらを意に介さず、舞っていた。

 足を高く上げ、踏み込み、ジグザグに動き、手にした緑に光る剣を掲げる。


――正直、身が震える。


 さっきより確実に強い。

 いや、強くなっている。


「鬼面に反閇へんばい――鬼剣舞おにけんばいじゃな。ここからが本気といったところじゃろ。だが流石、あの若さで赤を着るだけはあるのう。やるおるわ」

「なら――」

「問題ない。何せ、お主は虫の群霊じゃからな」

「群霊?」

「集まって一つの霊となっているというこじゃ。元来、怨むほど感情を持たない虫で身体を作れた怨霊よ」

「”作れた”ね。良いことか?」

「ああ、勿論じゃ。人の怨みに虫の反射を持つ――これ以上ない武闘派の怨霊じゃ。本来の怨みを取り戻せば、あの程度の陰陽師に負けようがない」

「どうすれば――怨める?」

「そこから教えないと駄目? 無理じゃんデン婆? もう怨みないしこいつに?」

「そんなわけがなかろ」

「悪いがサラとやらの言う通りだ。順番が悪かった。俺は――もう」


 恐らく怨みが強い順に並べると相依あい幾佐いくさ五百人いおと、乙太の順だろう。

 そこから政治家と弁護士が並び、後は差がない。


 俺のも込みでその程度の怨みだ。

 確かにデン婆の言うことは理解できた。

 相依あいをやった時、あの時の速度が出せれば――

 あの時と比べると蟻とギンヤンマくらいの差がある。

 芳賀はがの高まる力に比べると、ベルゼバブとダニくらいだ。


「分からんか? 仕方あるまい。あまり無茶をさせたくはなかったが――日登利ひとり


 デン婆が自らの顔を袖でなぞる。

 と、下から現れたのは違う顔。

 同じ婆だ。だが、元のどす黒い怨みたっぷりの凶相と違う。

 穏やかで、品のある、良いとこの婆――知らない顔だ。


 だが、同時に変わった声。

 聞き覚えがあった。

 もっと悲し気か、切羽詰まった必死な声しか知らないが。

 見た目に似合わないハリのある高い声は聞き覚えがある。

 身体に魂に刻まれた記憶の中にある。


「婆ちゃん――か?」

「ああ、いいかい。良くお聞き、虫入りの儀式をしなければならない理由。それ――相依あいちゃんに――」


 婆ちゃんの顔が少し苦しみを浮かべると、また袖がなぞって顔に戻ってしまう。


「これが精一杯じゃ」

「ああ――分かったよ」


 婆ちゃんの言葉。

 正直信じたわけじゃない。


 だけど確かにそうだ。

 俺はまだ儀式の全てを知らない。

 俺の蟲は”何故”を知らない。

 俺と同じように、何も知らずに死んでいる。

 知っていたのは婆ちゃんくらいだろう。


 だから、奴らに聞かねばならない。

 蟲獄こごくにて、奴らから――再び怨みを取り戻さねばならない。


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