第33話 指導
生きて帰って来た次の日の午前、和夜は1人で怪化薬打倒委員会の建物へ入った。建物内でリゼとキンバとすれ違う。
「お疲れ様です」
和夜は怯えることなく2人に挨拶をした。2人は和夜を軽く睨みながら無視して素通りする。
「こらこら、絶対に聞こえてたでしょ。目がガッツリ合ってたし」
「何だよ。うるせーな、今日はー」
リゼがイライラした感じで答えた。キンバも嫌そうな顔をしていた。
「今日は話があってね。お2人さんに」
「なんでしょうか?俺達は和夜先輩と違って暇じゃないんですよ」
「初対面の時からそうだったけどさー、リゼくんは私に呼び捨てでタメ口でイライラした感じで酷いことを言うし、キンバくんは先輩呼びで敬語だけど嫌味を言うし、それを止めて貰おうと思ってね。私は年上だし幹部リーダー補佐役だし」
2人は和夜にガンを飛ばした。
「実際に私が戦ったところを見てもないのに弱いって決めつけてもいるし」
「だったら手合わせでもして証明してみろよ」
リゼが和夜の胸倉を掴む。
「ああ、良いね。それ・・・君達から言ってくれるのを待ってた。怪我して後から上の人が下の人をいじめてるって言われても嫌だからね」
2人は怒りを抑えながら道場へ向かった。和夜は手を後ろで組み、ワクワクした感情を押さえながら2人の後ろを付いて行く。
3人は道場に着いた。リゼはチェーンをキンバに預ける。
「敵を倒す時みたいに武器も使いなよ。後1人ずつじゃなくて2人で良い」
「・・・後悔するなよ?おめぇも何か武器を持ってるのか?望んだ通り武器は使う。ただ1対2は流石に不平等だから1対1だ」
「えええ、面倒臭いなぁ。まぁ、良いよ」
リゼはチェーンを振り回し和夜へ目掛けて投げた。身動きを取れなくしてあっさり降参させることを考えたのだ。
「因果応報、無敵返し」
和夜がそう言うと、チェーンは勢いよく跳ね返りリゼは後ろに倒れた。リゼもキンバも目をパチクリさせ和夜を見た。和夜は得意げな顔で言う。
「私の武器はこの無敵な奥義。私の強さは分かったかな」
「ま、まぐれだろ?」
もう1度チェーンを和夜へ目掛けて放つが結果は同じだった。次にチェーンを使わずに殴りかかる。しかし、リゼのパンチよりも和夜の拳が早かった。打ち所が悪く、リゼは腹を抱えて膝をついた。
「リゼに何をする!?」
和夜の背中に目掛けてキンバが釘入り金属バットを打とうするが和夜の後ろ蹴りが先に決まり、金属バットが床に落ちる音が響く。
「もう決着はついた感じで良いかな」
「いや・・・まだだ」
片手で腹を押さえながらチェーンを持ったリゼは和夜を狙う。
「無敵返し」
チェーンはリゼの体に巻き付き芋虫のようになった。キンバは金属バットを拾い、また和夜を殴ろうとするがあっさり避けられ、代わりに背中を和夜に蹴られた。キンバはバランスを崩しリゼにぶつかる。2人は気絶した。
「面白い負け方だな」
和夜は腹を抱えて高笑いをする。
散々、笑った後はリゼとキンバが気絶したと和夜は急いで医務室へ連絡した。次はトレーニングルームへ、ノックをしてから顔を出す。
「失礼します」
「・・・何の用だ?」
強が冷たく言った。他の男達も冷たい目をしている。初対面の時から少しも変わることはない。いつものことである。
「幹部リーダー補佐役のナンバー2が入って来たっていうのに挨拶もしないで怖い顔だなーもう」
和夜はヘラヘラしていた。
「用がないなら出て行け。お前の居場所はない」
「用ならあるよ。特に君に」
年下である和夜に人差し指を刺され、かつ、君呼ばわりのタメ口に強は苛立った。しかし、舎弟に大人げないと思われても嫌なため我慢する。
「リゼくんとキンバくんにもさっき指導して来たけどさ。仕事での立場、私の方が上なのにタメ口ってどうなのかなって、私は部下でも年上だろうが年下だろうが敬語を気を付けているのにさ。たまにうっかりタメ口が混ざることもあるけど」
「今、お前はタメ口しかしてないぞ」
「わざとだよ。君がずっと私にタメ口だったから私もそうしてる」
2度も人差し指を刺された強は怒りを抑えて言う。
「・・・喧嘩売りに来ただけなら出て行け」
「喧嘩じゃない。指導だ。もし、私が上にいるのがそんなに気に食わないなら私より強くなって勝って出世してからにしてくれ。それまで、態度を改めろ」
傍観していた男共が怒鳴り出した。
「お前、強さんに失礼だぞ!」
「どうせ騎士さんの手柄を一部、横取りしてるんだろ!」
「だったら強さんと手合わせ出来るのかよ!?」
その台詞を待ってました、と言わんばかりに和夜はニヤッとした。
「ああ、勿論、出来るさ。手合わせ位。でも、加減が出来なくて負けて怪我しても恨まないでくれよ。部下いじめとか思われて、言いふらされたら嫌だからね」
「・・・ああ」
強の片手にあったダンベルは強く握り過ぎたことで砕けた。和夜が皆より先に歩いて道場へ向かう。後ろには強、強の舎弟がいる。道場からは医務室でよく仕事をしている医師が1人出てきた。
「あっ、和夜さん!リゼさんとキンバさんは今、医務室で休んでおります。軽い怪我なため安静にしてれば大丈夫です!」
「良かった。ありがとうございます。そうだ。少しの間、まだここに居てくれませんか?もしかしたら、また、怪我人が出るかもしれないので・・・割と早めに」
強達の方に一瞬だけ視線を送りながら言った。
「えっ?」
医師は驚いた。強が言う。
「そうだな。その方がいい」
「分かりました」
強の舎弟だけでなく1人の医師が見守る中、和夜と強の手合わせが始まる。中学生になった時からほとんど伸びることがなかった和夜の身長約151cmに対し、強の身長は200cm越え。2人の身長差は歴然だった。
「お願いします」
強が礼をして言った。そうか、手合わせする前ってこういうのもあるのか、と和夜は思い
「お願いします」
と合わせて礼をした。
リゼとキンバが医務室に運ばれた話は不死長老へ伝わる。
「昨日から伸郎くんに全然、連絡がつかないのぉ。せっかく、大事な娘が帰って来たから今にでも嬉しい報告がしたいのに」
「不死長老!リゼさんとキンバさんが医務室に運ばれました!軽い怪我と気絶です!」
急に報告が入り、何事かと思った不死長老は腰を曲げながらも急いで向かい、医務室へ入る。
「眠っておるの・・・だが、なぜ」
リゼはパチッと目が覚め飛び起きた。
「おお、リゼくん。気絶してると聞いとったが目覚めが早いの」
「アイツ・・・ぜってえ負けねぇ」
「あっ、リゼくん!寝とかなくて良いのかい!?・・・若いのぉ」
不死長老には目もくれず、リゼはダッシュで道場へ行く。勿論、チェーンは担いでいる。リゼが医務室を出てからキンバも目が覚めた。ゆっくりと体を起こし不死長老を見る。
「リゼは先に行ったか。俺も行かないと」
「どこに行くんじゃ?」
「和夜先輩が居る道場にです」
キンバも金属バットを担いでダッシュで向かった。不死長老は状況がイマイチ分からなかったので、とりあえずは道場へ行って見ることにした。
和夜vs強の戦いは始まっていた。まぁ、強の攻撃は一斉、当たらず和夜の攻撃が強に当たってばかりで和夜が強いことはハッキリしている。そこで、やっと1発、強の攻撃が当たり、ふっ飛んだ和夜は壁にぶつかり床に倒れていた。
「よっしゃー!強さんの重い1発が当たった!」
傍観していた舎弟達が喜んだ。
「なんだ、大したことない重い1発だな」
和夜がそう言うと、何でもなかったように服についた汚れを払いながら立つ。そして、服が軽く破れた程度で和夜自身に傷はなかった。
「嘘・・・だろ?」
舎弟達は勿論、強も驚愕した。くすっと和夜は笑いながら言う。
「毎日かかさず鍛えて付けたその筋肉は飾りなのか?おっと・・・流石に嫌味だったね。君達と同レベルに落ちたくはない」
イラっとしつつも強は怯まずに攻撃をする。
「因果応報、無敵返し」
強は先程、和夜へしたのと同じように壁に叩きつけられた。
「お返しだよ」
やったー、という顔をしながら言う。強は気絶していた。そこへ、リゼが現れる。
「もう体は大丈夫なのかい?まだ、おねんねしていたらどうだ?」
「やられっぱなしで終われっかよ」
和夜はまたリゼと戦うことになった。
「せっかく軽い怪我と気絶で済むように加減してあげたんだから安静にすれば良いのに。そんなに私の強さも立場も上なのが気に食わないのかい?」
和夜が言った後にキンバも来て2対1になった。その光景を見ていた舎弟達もしれっと加わる。気絶から目覚めた強も入る。和夜は人数が増えても余裕で避けたり、ガードしたり、奥義をお見舞いしたりして圧勝だった。不利で孤独な闘いでも、腹が立っていても、パンチやキック等の攻撃は加減をして行っていた。
「この人数でも、たった1人に勝てないなんて・・・私の方が強いのは分かっていたが、予想より弱くて拍子抜けだよ。その実力でナンバー2に反感してたのかい?」
手合わせしている状況を不死長老は見て固まる。
「和夜くん・・・一体、何が・・・どうしたんじゃ?」
戦いながらも和夜は不死長老が見ていることに気付いた。男共が疲れ、動けなった時に不死長老の元に歩いて近づく。
「長老さん、お疲れ様です。手合わせですよ」
「手合わせ・・・」
「はい。まぁ、この人達は認めたくないのか、私の勝ちがハッキリしているのにまだ終われそうにないんです。往々際が悪いですよね。粘り強さは満点です。ある程度は加減してるので安心して下さい」
不死長老と話をしていて油断するだろうと予想した強が和夜の背中目掛けてダンベルを投げる。和夜は瞬時に無敵返しをして跳ね返し、不利な手合わせはまた再開した。不死長老は和夜が怖かった。今の姿が初めて会って助けて貰った時とは違う。ヒーローというよりヒーローを狩る悪役に見えてきたのだ。いや、それにしか見えなかった。こうしてはいられないと、不死長老は立ち去る。電話を掛けるために。




