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第32話 騎士の過去

 騎士の過去の話をしよう。


 騎士は和夜に出会うまで人と仲良くなりたいと思ったことがなかった。特に理由はない。騎士の両親もそんな感じの人だった。両親は愛し合って結婚した訳ではない。結婚した方がお互いに得だろうと契約結婚のような形だった。そんな家庭に騎士は生まれた。


 学校に行かせて貰えたし、必要な物も買い与えてくれた。温かいご飯も出た。決して放置されていたとかではない。しかし、家族の会話をしたことはなかった。同じ家に住んでいるが、お互いほぼ他人のような状態。無音の生活だった。


 友達も作る気にはなれなかった。仲良くなりたいと近寄って来る者、好意を持って近づいてくる者はたくさん居たが、どうでも良かったので冷たくあしらっていた。他人等、眼中になかった。


 別に寂しくはなかった。1人の方が楽だった。だから、自ら望んでそうしていた。勉強等、自分のために必要なことを適当にやって過ごす毎日。その努力のお陰と元々の才能もあり、成績はいつも学年1位という優秀さだった。


 小学生位の頃、何となく外を歩いていた時のことだ。特に目的はなかったがデパートを出歩く。そこで、ハムスターのぬいぐるみが1匹だけ売れ残っているのを見つけた。なぜだか、とても気になり、気付いたら買っていた。


 ハムスターのぬいぐるみは自分の部屋に飾って可愛がった。今まで味わったことのない感覚だった。


 中学生位からだろうか。

「モテるからって良い気になっているんじゃねぇ」

と男共に妬まれ、面倒臭く絡まれることが多くなった。鍛える前から元々、筋肉質で運動神経も抜群だったので適当にやっつけ、その場を立ち去ることは珍しくなかった。


 騎士が高校に入学する頃に両親は他界した。不慮の交通事故。特に悲しいという感情はなかった。一緒に住んで居たというだけで家族との会話も時間も今までしていなかったからだ。だから、1人になっても平気だった。幸い、両親が残した多額の遺産で学校生活を送るのは困らなかった。いつものように1人で過ごし家ではハムスターのぬいぐるみを愛でていた。


 そこへ、転校生がやって来た。一目見て驚いた。どことなく自分の可愛がっているハムスターのぬいぐるみに似ている女の子だったのだ。初めて話をしてみたい、仲良くなりたいと思った。きっと、これが一目惚れなんだろう。


 見た目だけが理由じゃない。話をしていて、一緒に居て、とても楽しかった。人生で初めてだった。恋とは、愛とは、こんなにも心地の良い物なんだと思った。そう思わせてくれる人だった。無音の生活、人が眼中にない生活がガラリと変わった。


 人と一緒に居ることを避けていたから接し方が分からなかった。それが原因で和夜との距離感を間違えてしまうことがあり、和夜ちゃんの友達に注意されたり、アドバイスを貰ったりした。和夜は1人の時間が欲しいと勝手に居なくなることもあるが、離れることはなかった。1つ屋根の下、一緒に寮で暮らす。傍に居てくれた。優しい人だと思った。


 騎士の過去の話は以上である。


 復活した和夜が不死長老と黒葉の会話から解放されると、騎士と一緒に住む寮のリビングに顔を出す。

「ただいま~」

大切な人の声がする方を見た騎士は固まる。幻覚だと思った。

「会議に居なかったけど、どうしたの?」

騎士は勢いよく駆けつけて和夜を抱き締めた。

「い・・・息が・・・」

和夜の顔は騎士の胸筋で押し付けられ苦しかった。苦しかったが和夜も騎士を両手で軽く包み、抱き返してあげた。幻覚ではなくて、現実であると騎士は実感する。

「騎士くん、今日は休んでなよ。夕食は私が作るからさ」

「え?そんな俺がいつも好きでやっているから良いんだよ」

「ううん。いつものお礼」

和夜はリビングに騎士を座らせ、ゆっくり休んで貰いながら料理をする。焼肉のたれを使った男飯風の炒飯を作った。一緒に夕食を食べながら騎士は和夜に気になることを色々、聞いた。食べ終わった頃は

「そう言えば、和夜ちゃん、イヤリング付けてるの珍しいね。似合うよ」

と言った。

「ありがとう・・・それより騎士くん、疲れてない?明日もあるし今日は寝た方が良いよ。また明日、ゆっくり話そう」

「そうだね・・・和夜ちゃんが無事に帰って来てくれて良かった・・・料理もありがとう。美味しかった。おやすみ」

「おやすみー」

騎士は自分の部屋へ行き、久々に深い眠りにつく。寝室に向かう騎士の背中を和夜は頬杖をつき、口角を上げて見ていた。

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