第31話 不測の事態
もう動くことはない和夜の体が連れ去られた後に何をしたのか、騎士はあまり覚えていない。何も考えたくなかった。それでも、スマホを手に取り状況報告はしていた。その場に騎士1人しかいなかったため早急に不死長老へ連絡をしなければならないという考えは頭にあった。本人は記憶にはないが冷静な行動はしていた。不死長老に連絡されたことから、家族や友人、怪化薬打倒委員会のメンバーへと緊急連絡がされた。
運が良いのか悪いのか、1箇所だけ古い防犯カメラが設置されており映像は確認された。残念ながら音声は聞こえず、壊れかけのカメラだったので1部しか見れなかった。が、和夜とイカイケメンが戦闘、というよりイカイケメンが和夜に危害を加えた映像だけはバッチリ撮れていた。全員この状況だと生きている訳ないと思った。それでも生きていて欲しいと強く願う者もおり、藁にも縋る思いで科学の天才ユミにも聞いた。過去に看護師をしていたことから医療の天才ナースエンジェルユミとも呼ばれていたからだ。結論はやはり、心臓を切り離された状態では既に死亡、治療も不可能だろうと泣きながら言われた。
伸郎は映像を見た後に
「悪いが1人にしてくれ」
と言い会議室に1人になる。
「おい、マン。マンは居るか?」
呼んだが居なかった。体の力が抜け、ボンと椅子に座る。上を向き片手で目を覆った。
騎士はショックで動けず、戦えそうもなければ頭も回らない。そのため、少しの間、委員会の会議や活動を休むことになった。
伸郎はいつものような元気はないが、イカイケメンを探し回った。
和夜が居なくなってから約1週間程は経っただろうか。会議室には伸郎と騎士の2人以外が集まる。伸郎はイカイケメンが居る可能性のある場所に片っ端から実際に見に行っている為、会議に不在が多かった。騎士は今日も来れなそうだ。あの悲しい出来事から、間もないので無理はないだろう。和夜を嫌っていた強、リゼ、キンバは内心ざまあみろ、自業自得だ、と少し思っていたが、悲しい空気には耐えられず黙っていた。
静寂の会議室のドアを開く者が居た。イカイケメンを探し回る伸郎が時間を見つけて顔を出しに来たと誰もが思った。しかし、来るはずのない者がそこには立っていた。
「遅れてすみません。もう会議は始まってしまいましたか?」
和夜だったのだ。その姿を見た全員、目を見開いて固まる。和夜は席に座ろうと小走りになる。先に不死長老が口を開いた。
「・・・和夜くんかね?」
「ありえねぇだろ。・・・お前、誰だよ」
長老以外の男性は皆、警戒し身構える。すると、和夜は笑いながら
「何言ってるんですか。当たり前じゃないですか」
と答えた。確かにそうである。この建物に入るためには会員カードを通し顔認証、指紋認証、場合によりパスワード入力等の厳重な警備がされているので偽者が入ることが不可能である。つまり、目の前にいるのは紛れもなく和夜本人である。
「信じられんことだが、本物であることに間違いはないようだし・・・会議を始めるとするか」
会議は手短に終わり解散した。そして、不死長老と黒葉は和夜と3人で話をする。
「和夜くん、よく生きておった。生きて帰って来て、本当に良かった」
「和夜ー!」
「ぐるじいよ、黒葉ちゃん」
黒葉は話そっちのけで和夜を強く抱き締める。不死長老はいつもの光景を見ることが出来、生きて帰って来たことを本当に良かった、と安心した表情だった。黒葉が和夜のハグを渋々、止めた辺りで真面目な話になった。
「生きていて本当に良かった。でも、何があったんじゃ。イカイケメンにあんなことをされたのに」
「あんなこと?・・・ああ~、それが記憶がないんですよね」
「記憶がない?」
「はい。騎士くんが何か腕が大きい男と戦って勝って。それ位しか記憶がなくて。気付いたら長老さんの家の前に居たので・・・制服を見ても分かる通り、胸に傷はありませんし」
「・・・そうか」
「不死長老、和夜には今日はゆっくり休んで貰って。詳しい話はまた後でにしません?」
「そうじゃの。和夜くん、また今度、話をさせて貰いたい」
「はい」
2人に手を振り別れた和夜はにこやかな表情で真っすぐ寮へ向かった。帰り道を歩いているとスマホが鳴り響いていることに気づく。スマホの中身を見ると和夜が生きていると知った母と友人から連絡が多く来ていた。返信をし、会話が一旦、終わったところで歩き出した。
和夜は寮に着き鍵を開ける。騎士はリビングのソファーに座っていた。体の力が抜け何もする気になれなかった。




