第26話 夢
増え続ける怪化薬を飲んだ悪党共を倒す日々は続いた。戦闘員は苦労して倒すが幹部は余裕だった。勿論、ナンバー1の伸郎に至っては朝飯前である。
「なぜだ!?俺の姿は見えないはずなのに!?」
伸郎は透明人間と戦っており直感で完璧にガードし続けてた。
「やっと声を出したか。お前の攻撃何て、何となく分かるもんだ」
「くそっ」
「こっちも攻撃させて貰うぞ」
伸郎は敵へ目掛けダッシュしパンチをした。敵は
「ぐはっ」
と言って透明化が解けた状態で倒れていた。
「今日も黒幕の手掛かりはなしか・・・帰るか」
伸郎は不死長老へ倒したと連絡だけして家に帰宅した。
騎士は怪化薬打倒委員会のトレーニングルームに顔を出した。
「あっ騎士さん!ここに顔を出すなんて珍しいですね!」
強が嬉しそうに騎士へ近づくが騎士は少し冷たい態度だった。
「これを渡しに来ただけ」
ある段ボールを強に渡した。
「えっ、プロテインじゃないですか!しかも、こんなにたくさん」
強の言葉に驚き舎弟達は集まる。
「うわっ、しかも高級なやつ」
「俺このシリーズ欲しかったけど高くてなかなか買えないんだよなぁ」
「チョコも入ってる。糖分が摂りたかったから助かります!」
筋トレ男達は目を輝かせていた。騎士が言った。
「一応、言うけど俺は持って来ただけでプレゼントした人は別にいるから」
「えっ、誰ですか?」
強は少し目を見開いて聞いた。
「黒葉がリゼに絆創膏を渡した時と同じで口止めされているから言えない。けど、その人にちゃんと感謝してね」
それだけ言って騎士はトレーニングルームを出た。
騎士がトレーニングルームに顔を出す前、和夜と一緒に寮に居た。リビングで2人はソファーに座りながらテレビを見ていた。
「バトルアニメはやっぱり見ててテンションが上がるなぁ。私も格好良いヒーローになりたいなぁ」
和夜は推しのイケメンぬいぐるみを抱き締めながら言った。バトルシーンで興奮し強く抱き締めるからぬいぐるみが少し苦しそうだ。騎士は和夜が楽しそうに見ているのは良いが男のぬいぐるみを抱き締めているのは不満に思っていた。そこへインターホンが鳴った。
「来た来たー」
と言った和夜はぬいぐるみをソファーにポンっと放り投げ、ウキウキしながら出た。インターホンを鳴らしたのは大きな段ボールを持った配達員だった。配達員は玄関に荷物を置き居なくなる。和夜は騎士に
「俺が持つよ」
と言われたが
「大丈夫、大丈夫ー」
と言って自分で持つ。が、上手く持てず諦めて騎士にリビングまで運ぶのを頼んだ。リビングのテーブルに騎士が置くと和夜が段ボールを開封しながら言う。
「運んでくれてありがとう。実はちょっとした懸賞に応募したんだよね。メールで当選しましたって来たけど何が当たったかは分からないんだよな。何かなー」
開けると大量のプロテインだった。
「ありゃ、当たったのは嬉しいけど飲まないんだよな・・・騎士くん飲む?」
「飲むけど、この量は流石に飲みきれないかな」
「だよね。パパにあげても余るしな・・・あっ」
和夜は良いことを思いつき、頭の上に光った電球が出てくる。
「騎士くんには申し訳ないんだけど強さん達にあげて来てくれない?トレーニングルームで筋トレをたくさんしている人達だし多分、飲むよな」
「飲んでいるとは思うけど・・・本当に良いの?あの人達にあげて」
「良いの良いの。腐らせるよりは良いよ。あっ、私の名前は出さないでね」
という流れで騎士は強達に大量のプロテインを渡す運びになったのだ。
「後、運動した後に糖分が欲しくなる人もいるらしいね。推しの特典欲しさにたくさん買ったチョコも多くあるし」
と言ってプロテインの段ボールの中にチョコも入れたのだ。和夜はチョコが好きなため食べきれないこともないが入れた。
「和夜ちゃん。リゼに絆創膏を渡した時もそうだけど本当に匿名で良いの?」
「良いよ。逆に名前を出すとね。変な解釈されそうだし」
騎士は本当にこれで良いのかと悩みながら段ボールを運んだのであった。
段ボールを強達に渡した騎士がトレーニングルームから出る。近くで和夜が待っていた。
「渡して来たよ。喜んでた」
「おう、ありがとう。喜んでたなら良かった」
「うん」
騎士は何と言えば良いか、どうすることが正解なのか分からなかった。本人は望まなくても和夜がプロテインをプレゼントしたこと、絆創膏を渡したこと、それぞれ男共に話をするべきなのか。騎士が悩んでいるのをよそに和夜は楽しみだった。近くでお祭りをやっていて屋台が多くあるからだ。
そのお祭りの情報は伸郎も知っていた。任務から帰宅した伸郎は皿を洗っている美智子にルンルン気分で話し掛けた。
「ままっちー、和夜っち誘って近くのお祭りに行こうぜー」
「和夜なら多分お友達と行くわよ」
伸郎はさっきまでのテンションが嘘のようにどんよりしていた。部屋の隅で体育座りしている。美智子がチラッと伸郎の方を見ると、見えないはずの雨雲が見えたそうだ。
「パパも和夜さんと遊びたかった・・・」
雨雲は伸郎の頭のみに雨を降らせている。
「今日の夕飯はお祭りで焼きそばやお好み焼きでも買って済ませましょ」
「・・・おばさんと出掛けてもな」
「何!?このおじさんは!?」
雨雲は雨ではなく飴を降らせていたそうだ。こんな形で夫婦水入らず、お祭りに出掛けることとなった。今は見た目が若返っているので学生カップルに見えなくもない。
「この焼きそばうまいな」
「たこ焼きも美味しいわよ」
伸郎は美智子と美味しい物を食べて楽しんだ。
「ビール何てよく飲めるわねぇ」
「うまいぞ。飲んでみる?」
「いらない」
伸郎は冷えたビールをゴクゴク飲んだ。
「そんなに飲んで、後で腹がぴーぴーなるんじゃないの?」
「なりませーん」
お祭りではカップルと思われる男女だらけの道もあった。そこを和夜と騎士は歩いていた。
「バリボリバリボリ」
ロマンティックな雰囲気を壊すように和夜は苺飴を食べていた。和夜は苺飴はなめずに噛むタイプなため決して雰囲気を壊すためにわざとやっている訳ではない。ハムスターの様に頬を膨らませ美味しそうに食べる和夜を見て騎士は幸せそうだった。
「美味しい?」
「うん。やっぱり苺は良いね」
2人が良いならまぁ良いだろう。その場面を可愛い浴衣を着て、こっそり見ている者がいた。
「ああー!あの子、何してんのよ。雰囲気がー」
南が心配そうに見ていた。茅野とメガネは爆笑していた。偶然2人を見かけたが邪魔をしてはいけないと咄嗟に隠れたのだ。
和夜と騎士はお祭りを楽しんだ後、寮へ帰宅する。和夜の後に騎士が風呂を済ませると、リビングで和夜がバトルアニメを飽きずに見ていた。騎士は楽しそうに見る和夜を見て自分も楽しい気分だった。だから、いつものように隣に座って一緒に見る。
「和夜ちゃんは本当にバトルやヒーローが出てくるアニメが好きだね」
「やっぱり憧れるからね~・・・そう言えば、騎士くんは何か見たいのはないの?」
「俺はないかなぁ。でも、和夜ちゃんのお陰でアニメを見るの楽しいよ」
「そうか。何か好きなアニメばっかり見させて悪いな」
「気にしなくて良いよ。俺も楽しいし、和夜ちゃんが見たいのを見たい」
そんな会話をしお互い夜の挨拶をしたらそれぞれの部屋に入る。寝る前に椅子に座り軽く歌を口ずさみながらブラシで髪をとかしていた。女のたしなみである。
「ピーピー」
変な音がして肩をビクッとさせる。周りを見渡すがどこにもいない。
「ピーピー」
下を見ると変な生き物がいた。
「ひっ」
ギョッとして声を出すが夜、しかも寮であることを思い出し口を塞ぐ。幸い、隣の部屋に聞こえていないようだ。
「ピーピー」
鳴き声をあげながら変な生き物は和夜の足元へ来た。一瞬、虫かなんかだと思い和夜は瞬時に立ち離れるが直ぐに止まった。
「・・・イ、イカ?」
変な生き物はリンゴ位に小さいサイズ、全身紫色、イカの形をしていた。目は意外にもクリっとして可愛らしかった。和夜はしゃがむ。すると、小さく可愛いイカは和夜の胸へ飛びつくつもりだったのだが、失敗し顎にぶつかり落ちる。幸い、落ちた先が胸だったので胸に落ちしがみついていた。和夜は顎を打った後に壁に後頭部も打ち、軽く尻餅もついた。両手で後頭部を押さえる。
「痛ぇ・・・このイカめっ」
片手でおしりを摩りながら、もう片方の手でイカを抱え立ち上がる。一瞬、怒った顔をするがイカが可愛いのでまぁ許すとしよう。騎士に見せようとドアを見るが遅い時間であること、先程おやすみと言ったことを思い出し明日にすることにした。一旦ベットに座りイカを引き剥がそうとするがしがみついて離れない。
「これじゃ寝られん・・・」
「ピーピー」
「腹でも減ってんのか?何なら食えるかな」
ベットから立とうとするが和夜はなぜか立てなかった。視界がグルグルと回り、無意識にベットに寝転がる。和夜はここまでしか記憶がない。イカを抱きしめながら眠りについていた。
和夜は1人、夜の海を見ていた。紫色の月が海に映り綺麗だった。
「紫色の月、初めて見たわ~。いつか青い月も見たいなぁ~」
「こんばんは」
横を向くとイカイケメンが居た。
「あ、どうも。よく会いますね」
「ふふふ、そうかな」
「そうですよ。友達にもイカイケメンさんに会った話をしたら羨ましがっていたんで」
「ゆっくり話したいことがあってね・・・2人でゆっくり・・・」
イカイケメンは和夜に近づきながら言った。イカイケメンは海とは反対の方向を見る。その後に和夜も同じ方向を見るとデザインの凝ったお洒落な白テーブルと白イスがあった。そこに2人は座り和夜は海を見てイカイケメンは和夜の表情を見ていた。
「君のお父さん、また人気が上がったんじゃない?」
「そうなんですか?親が人気者のヒーローなんて鼻が高いです。まぁ、本人は調子に乗って、天狗になってますけど」
和夜はイカイケメンの方を向き笑いながら答える。純粋に嬉しそうな表情だな、と思いながらイカイケメンはティーカップを口に付ける。関係ないが和夜はオレンジジュースでストローを口に付けて飲んでいた。
「騎士くんも人気だよね。若い、強い、怪力、イケメン、格好良いヒーローってファンの子がとても騒いでいるよ。ネットとかを見ると、伸郎くんに負けない位ね」
「へぇー、父に負けない位か~、すごいなぁ、騎士くんはー、娘の私とは正反対だな」
ウケを狙った自虐ギャグを笑いながら言う。イカイケメンは一瞬、怪しい笑顔になった。
「この前から気になってたけどネットは見ないのかい?調べればお父さんや騎士くんの活躍が見れるよ」
「ああ~、あまり見ないんですよね。そう言うのは」
「聞いても良いかい?見ない理由」
「ああー・・・恥ずかしながら父や騎士くんのことを調べると自分のことも出てきそうなんで避けてるんですよ。私は・・・イメージが悪いんで」
「なるほど。それは悪いことを聞いちゃったな」
「いえ、大丈夫です」
和夜は何か分からないが正直に言ってしまった、と不思議に思った。ここからイカイケメンと更に話をした気もするが和夜は覚えていない。
朝、目が覚めると布団を被った記憶がないのに体にはしっかり掛けられていた。起き上がり小さいイカを思い出す。辺りを探すがどこにも居ない。イカイケメンのことも思い出す。冷静になって考えれば1人で紫の月の見える海に行く機会がないし近くに見える場所もないことを思い出す。夢か、と思った。それにしては現実味があり過ぎるため部屋を出てキョロキョロ辺りを見た。
「何か探し物?」
騎士が聞く。
「いや~、イカがね~」
「イカ?」
「あっ・・・ごめん。ちょっと寝ぼけてた」
和夜は恥ずかしくなり探すのを止めた。朝食を食べながら夢の話をした。
「また、あの男に会ったの?」
騎士は少し寂しそうに聞いた。
「会ったって、夢に出て来ただけだよ」
騎士は面白くなさそうな顔をしていた。イカイケメンには1度しか会ったことがないが嫌悪感しかなかった。
「いつも料理して貰ってごめんね。ありがたいよ。たまには私も」
「良いんだよ。俺が好きでやってることだから」
にこやかに騎士は言った。
ちなみに祭りの後、伸郎は夜中に目が覚めトイレに駆け込むのであった。




