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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十六章 灰色の毒 ――船の墓場炎上編――
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第四百八話 魔剣と分水嶺

 五家支部の屋上に眼鏡を掛けた大人しそうな女がいた。名を鳥居茜(とりいあかね)という。異能研の研究員、鳥居杏(とりいあんず)の双子の姉だ。先月まで東銀の西部に位置する難民キャンプに詰めていたが、今回の任務に同行していた。


 鳥居の視線の先には亜梨沙がいた。風になびく黒髪を押さえながら五家の夜景を見下ろしている。ただそこに佇んでいるだけで映画のヒロインのように映える女だ。


 昔から何かと派手な亜梨沙や妹が苦手だった。二人とは異なり根っからのインドア派。小説(ラノベ)を読んだり絵を描いたり……独りの時間が好きだった。人ごみは嫌いだし人見知りもする――鳥居は自分の性格をよく分かっていた。


(それなのに私はどうしてこんな異能を……)


 鳥居姉妹はA級の精神感応系(イー・エス・ピー)だが、双子でありながら姉と妹で特性は真逆だった。


「そんなに自分の異能が嫌い?」


「え?」


 突然の質問に鳥居は間の抜けた返事をしてしまった。


「精神感応系の昇級条件は念動力系とは異なるわ。私はね、本当に優秀な精神感応系のギフターは非常に貴重だと思っているの。S級ギフター並みにね。そう、あなた達姉妹は協会にとってなくてはならない戦力よ」


「……ありがとうございます」


「何の因果か分からないけど、リア充の妹は受信専門、非リアのあなたは発信専門だもんね」


 妹の異能は<思念読取(サイコメトリー)>だ。念写もこなすが異能の性質はマナの受信と言える。対する茜は<思念転写(テレパス)>――自身のイメージを他者へ発信する異能だ。


「私もテレパスできるけど、受信者に精神感応系の素養がないと無理なの。その点、あなたはどんな相手でも強制的に送信できる。私の千里眼とあなたの思念転写があれば五家に散らばっている全てのギフターと情報を共有できるわ」


「……他人とマナが繋がる感覚が苦手なんですけどね。人数や距離次第では膨大なマナを消費しますし」


 そこで五家支部長の沖田が現れた。ストライプのスーツを着こなす紳士風の男である。


「今夜あたり取引がありそうですか」


「そうねえ、それらしき船は視えるわ」


「それにしても急な応援要請でしたね。しかもA級以上という条件付きとは……申し訳ありませんがBBB級以上とさせていただきました。次回からはせめて一週間前には告知していただきませんと、人員を確保できません。大体あなたはいつも……」


 沖田は優秀だが生真面目な性格をしていた。フェルディナンと違って融通も利かない。気分屋の亜梨沙とは何かと相性が悪かった。


「わ、悪かったってばぁ! 事態は急を要するのよ。今回、AMDの取引現場を叩いて背景の組織やルートを明らかにしないと後手後手になってしまうのよ……っと、動きがあったわ」 


 亜梨沙は目を閉じてマナを展開する。沖田はその後ろ姿を見ていた。


(五家の人口は二百万人以上、無数の建築物と二千にも及ぶ違法船……それら膨大なデータをサーチする負担は計り知れません。副会長の魔眼とマナ量があって成せる曲芸とも言えますね。それに……)


 沖田は横にいる鳥居を視る。疲れた顔をしている鳥居から無数のマナの糸が伸びていた。念動力系とは別の階層のマナの糸――それは鳥居がミーティングの時に任務に参加する全てのギフターに付けた糸だ。電話回線のようなものである。


(これ程の人数に対応できるとは……さすが本部は人財が豊富ですね)


 沖田が感心していると亜梨沙が口を開いた。


「……ん? 五家湾に……巨大な<魔剣>を装備している男がいる」


「魔剣ですか。ということはもしかして」


「ええ、血剣旅団ね。そしておそらくあの魔剣持ち(・・・・)は――団長のレオンハルト=ヴェルクマイスター」


 その名を聞いて沖田が目を細めた。首を小さく横に振って亜梨沙を見る。


「あのレオですか。全くあなたという人は……とんでもない男と引き合わせてくれますね。ギフター達を呼び戻しましょう。このままでは全滅してしまいます」


「作戦は続行するわ。活路は――(あのこ)が開く」


 深刻な沖田を余所に亜梨沙は笑っている。(だからこの人は好きになれないんだ)沖田は溜息をついた。しかし今夜が分水嶺だと理解はしているため沈黙を同意の証とする。


「ここは……藪川建設の工場ね。羽生くんの潜入捜査と杏のサイコメトリーの裏付けが取れたわ。と言うことは……やはり龍王が絡んでいる……ふふん♪」


 亜梨沙は振り返ると鳥居に言った。


「今からあなたに思念(データ)を送るわ。それを全ギフターへ発信して。あ、ドライバーには配慮して。視野が塞がって事故っても困るから」


「分かりました」


「私は?」と沖田が前へ出る。


「沖田さんは車を出してください。私と一緒に現場へ行きましょう」


「令状はありませんが」


 亜梨沙は鼻で笑った。


「ふふ、現行犯逮捕、銃刀法違反、公務執行妨害。何でもいいわよ」


「承知しました」


 沖田は頷くと空を見上げた。雲が流れ月を隠す。急に風が強くなってきた。(海の方は荒れますね)沖田は気を引き締めて車のキーを握りしめた。

【参照】

鳥居茜(姉)→第六十二話 無登録難民の居場所

鳥居杏(妹)→第七十六話 異能研

亜梨沙のテレパス→第百八話 魔女の千里眼

ピョートルのテレパス→第百八十二話 また会いましょう

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