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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十六章 灰色の毒 ――船の墓場炎上編――
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第四百六話 赤龍の首を我が手に

 夜の五家湾に貨物船がゆっくりと入ってきた。スラムに近い工業地帯へ舵を取り、少し沖合で停泊した。周囲は違法船で溢れかえっている――ここは船の墓場だ。


 甲板で赤いチャイナ服を着た女が煙管を吸っている。赤い尖兵リーダーのユエだ。妖艶な仕草で吐いた煙は海風に乗って夜空へ消えていった。


「沖に置いてきた奴等は大丈夫だろうか……海保に捕まらないといいがな」


 ユエが不安そうな表情を浮かべる。二隻で湾に入ると目立つので二手に分かれていたのだ。


「お嬢、龍王の遠藤は来ないらしいぜ」


 側近のベンが操舵室から顔を出す。


「そうか。今夜辺り……と思っていたんだが。シャイな男だな」


「お、お嬢! まさか本気であの男を? 冗談だろ」


「ふふ、どうだろうな。ま、遠藤さんはホワイトカラーだから現場には出てこないか」


 ユエは冗談めかして微笑むと煙管を吹かした。その横顔はどこか儚げに見える。ベンは遠慮がちに口を開いた。


「なあ……どうして遠藤の話に乗ったんだ?」


「んー、そうだな。麻薬の密輸だけでも我々の利になる。日本は稼げる国だ。排マナのドラッグ……AMDには驚かされたよ」


「ああ、ヤツが考えたんだろう。ダークマナでできるなら排マナでもできるだろうって。普通考えないよな、排マナなんて全くの盲点だったぜ。SNSを使って販路を拡大しているらしい」


AMP(アッシュマナパウダー)の製造方法は明かしてくれないが……まあ、我々は原料となる麻薬を卸せるだけでいいさ。どうやら日本で加工してアメリカやメキシコに輸出をしているようだよ。今や龍王はグローバルにビジネスを展開しているんだ」


 ベンは腕を組んで唸る。数ヶ月前、遠藤は商談のために中国の魔龍街までやって来た。内容は麻薬の仕入れと日本までの輸送。それが新種のドラッグに化けるとは思いもよらなかったのだ。今やAMDはDMDと並ぶマナドラッグになっている。


「それだけか、お嬢」


 ユエはどこか遠い目で夜の水平線を見据える。


「――あの日、父は意気揚々と家を出て行った。『赤龍と同盟を組んだら組織はもっと大きくなる。家族に楽をさせてやる』とな。しかし父を待っていたのは赤龍の裏切りだった。私は父の死体を探した。しかしどこにもない。残っていたのは廃病院の焼け跡だけだった。赤龍の炎に焼かれると骨も残らないという。私は空っぽの墓の前で立ち尽くした――許さない。私は赤龍の首を父の墓に供えると決めた。でも普通人の私がどうやって……憎しみに身を焼かれながら年月だけが過ぎていった。そんな時だ。遠藤さんが現れて龍尾に勝つと言った」


 そう語るユエは反社組織のリーダーではなく父を思う一人の娘だった。


「龍尾五天龍の一人、赤龍のシン……あいつに勝てるなら私はなんだってする。ふふ、私は私情で組織を動かす愚かな女だ。幻滅したか?」


「がはは! 悪党に情があっちゃいけねぇってことはないだろ。ついていくぜ、地獄の底までな」


 ベンは豪快に笑った。話が一段落したタイミングで操舵室から巨大な剣を背負った男が出てきた。顔に傷がある戦士のような風貌だ。男の名はレオ。血剣旅団の団長だ。


「龍王の繁田と連絡がついた」


 レオの言葉を聞いてユエは苦笑した。


「まったく用心深い奴等だね。当日まで取引現場が分からないんだからな」


「五家には協会の支部があるからな。支部長の沖田は頭が切れる。それくらいでいい。ヤクの隠し場所は船底下部の海水取入口(シーチェスト)……潜水しないと取り出せない。ベン、頼めるか? 以前に潜った奴は溺死したからな」


「オーケーオーケー。俺は海人(うみんちゅ)だ! 潜りは任せてくれ。レオさん」


 その時――サァと風が吹いた。「……気を付けろ、誰かいる」レオは自分達以外のマナを感じ取り注意を促す。常人では気付けないほどの微かなマナの揺らぎだ。するとユエが空を見上げて叫んだ。


「信じられん! 人が浮いている……」


 上空に三上が佇んでいた。茶色の短髪、着古したジャケットを羽織り、怠そうに甲板を見下ろしている。普通人のユエとベンには浮いているように見えるが、三上はマナ壁に乗っているだけだった。


「お前はどこの者だ」


 レオが語り掛けると三上は軽快に飛び降りた。


「龍王の三上だ。水先案内人兼護衛ってとこか。そこのお嬢さんのな」


 三上はユエを指差した。


「わ、私のか?」


「あんたは普通人(ノーマル)だから敵に狙われるかもしれない……って遠藤さんが言っていたぜ。俺にとっちゃどうでもいいんだがな」


 そのぶっきらぼうな言い方にベンが不快感を露わにした。


「龍王だかなんだか知らねぇが……護衛は俺一人で充分だ!」


 煉瓦のような拳を振り回す――しかし、三上は伸びきった腕を掴むとベンを一回転させた。「ぐあっ」ドサッと音を立てて背中を打ち付ける。隻腕の男に軽くあしらわれた。ベンは屈辱を覚えて表情を歪める。


「まあ落ち着けよ、旦那。今夜は荒れそうだぜ。味方は一人でも多い方がいいだろう」


 三上はそう言うと手を差し伸べた。

【参照】

赤龍の裏切り→第二百九十五話 地獄の業火に焼かれて詫びてこい

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