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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十六章 灰色の毒 ――船の墓場炎上編――
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第三百九十三話 ドラッグとメランコリー

 東銀から少し離れた所に異人組織[龍尾(ドラゴンテイル)]が管理する福祉アパートがある。ホームレスを入居させ生活保護をピンハネし収益を得ている、いわゆる貧困ビジネスだ。


 その一室に龍尾のドラッグ担当のソジュンが住んでいる。龍尾の拠点は東銀より南に位置する川成市(かわなりし)にあるが、ソジュンは能力を高く評価され東銀の拠点を任されていた。


「えーっと……東銀・一宮・月宮エリアで『こしあん』欲しい方いますか……と」


 ソジュンはスマホ三台、パソコン三台を同時に操作しながらブツブツと呟いている。目にはクマができていて無精ヒゲが生えていた。しかし韓国の俳優のような優男なので、それでもイケメンだった。


「ソジュンくん。こしあんって、お饅頭に入っているアレのこと?」


 後ろからスマホの画面を覗き込むのは先輩のルーである。年齢はソジュンより上のアラサーだ。華奢な体形だがゴリゴリの念動力系(サイコキネシス)で岩をも割る拳を持っている。その戦闘力はソジュンより上だった。


「いえ、DMD(ダークマナドラッグ)の隠語です。ダークマナって黒いでしょう。餡子(あんこ)もそうです。(あん)(あん)を掛けてもいます。僕が流行らせました。因みにDMP(ダークマナパウダー)は『粒あん』ですよ」


「ふーん。これなら堂々とドラッターで取引してもバレないのね。あ、ハッシュタグ『こしあん』で拡散しているんだ。私には分からない世界だわ」


 ドラッターとは若者を中心に人気のあるSNSである。世界で五億人のユーザーがいる巨大なマーケットだ。ルーは機械音痴、ネット音痴だった。感心したように「はぁ」と溜息をつく。


「秘匿性の高いドラグラムに誘導しますけどね。そっち系に詳しいデジタルネイティブなら、すぐに食い付きますよ。彼等は新しい隠語にも敏感です」


「本当にバレないのかしら。例えばスマホからとか」


「これは飛ばしスマホです。他人名義なので僕に被害はありません。福祉アパートの住人はカモですね。喜んで契約してくれますよ。料金は保護費から引きます」


 部屋の隅には段ボール箱に入った大量のスマホがある。ルーは目を丸くした。


「そ、そうなの? 経済ってこうやって回っているのね~」


「もちろん、彼等にシワ寄せがいかないように細心の注意を払います。『売ります』だと取引を彷彿とさせるので『欲しい方』って書いたりね……はぁ、疲れた」


 ドラッグの売上は伸びているが、ルーは何かに没頭して嫌なことを忘れようとするソジュンを心配している。ソジュンが一度ファイブソウルズのソナムに襲撃されたこともあり、護衛と世話係を買って出ていた。黒龍のハオランの護衛はシンユーとカイに引き継いでいる。


「ねえ、ソジュンくん。こんな部屋は引き払って、私のマンションに来なさいよ。独りでいたら気が滅入るでしょう」


「いえ、それは……愛ちゃんが来るかもしれないし」


 ソジュンは瀬川愛のことを引きずっていた。またひょっこりと遊びに来るのでは、と思っているのだ。ルーは鋭い視線をソジュンに向ける。


「ねえ、覚えているかしら。あなたが龍尾に入って間もない頃に言ったわよね? 彼女をつくる時は私に面通しすること。私が駄目って言ったら駄目。あなたが悪い女に引っ掛からないように私が目を光らせるって。愛さんだっけ? 私、聞いていないんだけど」


 ルーは本気で怒っていた。ソジュンは萎縮しながら言い訳をする。


「そ、それは未成年だった頃の話ですよね。僕はもう大人だから時効だと思いました。実は結婚も視野に入れていたんですが、雨の市街戦以降連絡取れないんで……どうやら振られたみたいです。ガチで落ち込んでいます。はぁ、死にたい」


「それって結婚詐欺とかじゃないの? シンユーくんも怪しいって言っていたじゃない! もう吹っ切れなさいよ!」


 ルーがバンッと床を叩くと部屋が揺れた。相変わらずの怪力だった。


「あはは。結婚するなら年上の女性の方が良いんですかねえ。愛ちゃんは年下だったから」


「え?」


 ソジュンの言葉を聞いてルーの視線が泳ぐ。二人の付き合いは長い。昔から弟のようなソジュンを可愛がってきた。しかし姉として世話を焼いてきたつもりが、いつの間にか身長を抜かされて、今では道行く女が振り向くような美男子に成長している。ルーは複雑な思いを抱えていた。


「はぁ、いつまで経っても心配よねー。きみは」


「あ!」


 ソジュンはパソコンのモニターを凝視した。ドラッターのタイムライン。ハンドルネームは「グリーンピース」。ハッシュタグ「つみれ」と書かれていた。


(これは……っぽいな)


 同業者ゆえにドラッグの隠語だと分かる。覚醒剤より高いがDMDよりは安い――絶妙な価格帯だった。


(まさか新種のドラッグ? DMDよりレアな!)


 ソジュンは親指の爪を噛んだ。入院と有休で長期間現場を離れていたことを悔いた。ドラッグの世界は日進月歩。新たなドラッグにシェアを奪われることもある。毎日新しい商品が生まれては消えていくのだ。


(これは……どこかの組織に攻め込まれている? ここから巻き返せるのか? くそ、僕はなんであんなに無駄な時間を! 浦島太郎の気分だよ)


 ソジュンは一心不乱にパソコンを操作し始めた。しかし、ルーには何もできない。ただソジュンの横顔を黙って見守ることしかできなかった。

【参照】

ソジュンと愛→第三十七話 DMDの売人

雨の市街戦→第九十六話 鷹眼のソジュン

シンユーの忠告→第百十九話 龍尾の五天龍

黒龍のハオラン→第百二十話 龍尾とアルティメット・ディアーナ

長期間休んでいたソジュン→第二百四十八話 半グレの男女がコーヒーを飲むとき

ソジュンとルーの約束→第三百七十五話 龍尾と虎爪

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