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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十六章 灰色の毒 ――船の墓場炎上編――
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第三百九十四話 ソフィア、D級ギフターになる

 日本経済の中心地、氷川SC(スマートシティー)の一等地にそびえ立つタワーレジデンス。最上階のペントハウスがエリソン家の自宅だ。その日、シュウとリンは二十五階のスカイラウンジに招かれていた。


「シュウくん。リンちゃん。この間はソフィアのためにありがとう」


 フィルとソフィアが頭を下げる。シュウとリンは事のあらましを聞いていた。学校での苛めのこと、アンナと瑠璃のこと、母フローラのこと、月夜叉(エストリエ)のこと。なお、南とフローラの一騎打ちに関してはシュウが<火花(エタンセ)>を撃つ時に直接目撃しており、当然リンにも伝わっている。


 シュウはラウンジを見渡した。緊張しないようにと気楽な立食スタイルだった。執事のクリス、メイドのミリア、ギフターのニック。他に護衛が数人いて、テキパキと作業をしている。ラウンジからは氷川SCの街並みを見下ろせた。


「じゃあ私は向こうで仕事をしているよ。ソフィア、あとはよろしく」


 フィルはそう言うとラウンジを出て行った。ロビーでノートパソコンを開く姿が見える。


「シュウさま、リンさん! 今日はたくさん召し上がってくださいね。ミリアのローストビーフは絶品ですよ」


 ソフィアはフワフワのブロンドをバッサリと切って、内巻きボブになっていた。そのせいか大人びて見える。以前の「生意気なお嬢様」の雰囲気は微塵もない。


 シュウが笑いながら言った。


「髪切ったんだな」


「南先輩が特訓の邪魔になるから切った方が良いと言うものですから。リンさんが外ハネなので私は内巻きにしてみました。シャンプーが楽で感動しています」


 ソフィアの表情は憑きものが取れたようにスッキリとしていた。リンに対する敵意が奇麗さっぱりと消えている。


(何かこの子、私をモブ呼ばわりしていた頃と変わりましたね)


 リンは首を傾げながら口を開いた。


「そう言えばソフィアさんはギフターに昇格したんでしたね」


「はい! D級ギフターになりました。訓練生です。私だけでなくクラスメイトのヴィオラとコニーくんもですけどね」


「初等部でギフターってスゲーな!」


 シュウがローストビーフを食べながらソフィアの頭を撫でる。


「そ、そんなことないですよ。南先輩は初等部でB級ギフターだったらしいですし。私なんてまだまだです! あ、先日の異能交流試合はとってもカッコよかったです! 私はシュウさまのように強くなりたいのです! シュウさまは私の憧れですから! だからA級ギフターを目指して頑張ります!」


 ソフィアはグイグイとシュウに詰め寄った。(やっぱり変わってない!)リンが慌てて間に入る。


「どーして強くなりてーんだよ? ギフターなんか辞めてお嬢様人生の方が幸せじゃねーの?」


 シュウの言葉を聞いてソフィアは逡巡した。


「南先輩がいつも無茶をして大怪我をするのです。だから私が強くなれば盾くらいにはなれるかなって……」


 そう語るソフィアの瞳から月のマナが漏れ出ていた。月の精霊をその身に宿した少女は対峙する者にある種の凄みを感じさせる。シュウは鳥肌が立っていた。気圧されたわけではない。心が共鳴したような――自分の中の何かがソフィアの何かに反応した。そんな表現がしっくりくる。


「フローラさんの意識は完全に消えたのか?」


「母の記憶や感情は共有しています。前のように暴走することはありませんけどね。たまに夢に出てきますよ」


 そこまで話すとソフィアはどこか遠い目でシュウを見た。


「夢の中にシュウさまにそっくりな方が出てくるのです。強くてカッコよくて……きっと母も……」


「どうした?」


「えっと」


 フローラは異人傭兵部隊アドルガッサーベールに所属していた時期がある。シュウの父、【雷神(ママラガン)】のライと行動を共にしていた。ソフィアはそのことを言おうか悩んだが口を閉ざした。


「いえ、何でもありません。私の中で私と母の記憶がゴチャゴチャになっていて上手く説明できないのです。今度お話ししますね」


 シュウは特に関心を示すこともなくそれ以上聞かなかった。しかしリンが何かを言いたげにソフィアを視ている。(う……)ドキリとして話題を逸らした。


「あ、シュウさま。五家(ごけ)って街をご存じですか?」


「名古屋の方の異人街だろ? 何度か仕事で行ったことあるぜ」


「今度、A等級(クラス)のギフターが任務で行くみたいで……南先輩が無茶しそうで心配なのです」


 ソフィアの唇から悩ましげな吐息が漏れる。その仕草は弟を気遣う姉のように見えた。ソフィアは初等部、南は高等部だが、既に精神年齢は逆転しているようであった。


「大丈夫だろ。フィオナがいるから。銀髪の。あいつとは一度戦ったけど強かったぜ」


「フィオナ先輩は南先輩の護衛から外れているんですよ。AA級(ダブルエー)とA級で等級が違うので一緒にいる時間も減っています。それが原因か分かりませんが、フィオナ先輩はスランプ中なのです。だから今までフィオナ先輩が怖くて遠慮していた女子達にチャンス到来なのです。うふふ♪」


 ソフィアは生き生きと協会の内情を話している。何が楽しいのか目をキラキラとさせ口元は緩んでいた。リンは呆れながら少女の変化を感じ取っていた。


(へー。二言目には南先輩ですか。これはちょっと意外な展開です。それにしても少しは成長したと思いましたが……やっぱりこの子は元々あざといんですね……)


 ソフィアの心変わりをほぼ把握したリンは、恋のライバルが減ってホッとしながらも冷ややかな視線を向けていた。

【参照】

異能交流試合→第三百三十五話 ジャイアントキリング

シュウとエストリエの縁→第三百五十二話 父に捧げる最期の涙

ソフィアの夢→第三百五十八話 ソフィアの告白

南とフローラの一騎打ち→第三百六十八話 予測不能なノイズ

月の精霊を宿したソフィア→第三百七十二話 ソフィアの覚醒 3/3

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