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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百六十話 氷の少年と炎の少女

 南が昼休みに菓子パンを食べていると、クラスメイトの朱雀華恋が呆れ顔でやって来た。


「またそんなもの食べてるの?」


「……別に」


 無視をして食事を継続しようとすると、パンを取り上げられた。


「別に、じゃないよ。一緒に学食へ行こ。身体に良いメニューを選んであげるから」


「華恋は冷たくて酸っぱいやつ選ぶからいいよ」


「え? サラダのこと言っているのかな? 駄目じゃない、ちゃんと野菜食べないと。きみには世話を焼いてくれるカノジョがいないんだから、せめてクラス委員の私の言うことは聞いてほしいな」


 笑顔だが有無を言わせない迫力があった。一度冷蔵庫を覗かれてからというもの華恋は口うるさくなっているのだ。南は取られたパンに手を伸ばしていたが――ボボッ! 目の前でパンが燃え朽ちた。華恋はパイロ系のギフターである。南は手を引っ込めると溜息をつく。


「……ん?」


 教室の入り口に目を向けるとそこに初等部の女子生徒がいた。ソフィアの友人のアンナと瑠璃だった。入ってくる勇気がないのか、心細そうに南を見ている。華恋もその視線に気が付いた。


「誰かな? ファンクラブの子?」


「いや……違うよ」


 南は席を立つと二人の方へ歩いて行く。するとアンナが駆け寄ってきた。華恋が意外そうな表情でその様子を見ている。南が他人とコミュニケーションを取ること自体、稀有な光景だからだ。


「南先輩! あの……その……!」


「どうしたの?」


 アンナの横で瑠璃が何度も頭を下げる。


「私たちなんかがAA級(ダブルエー)の先輩に話を聞いていただくなんて失礼だとは思うのですが」


「……別に良いよ、そういうの。ウザいから前みたいに話してほしい」


「そ、そうですか?」


 華恋が苦笑しながら間に入った。


「南くんがそんなこと気にする性格じゃないって知っているでしょう。屋上のカフェに行こうよ。そこの方が落ち着いて話せるじゃない」



 ◆



 アンナと瑠璃から一通り事情を聞くと、優等生の華恋が感想を述べた。


「それはヴィオラちゃんが悪いよ。私は協会のパーティーであの子と挨拶したけど、そんな風に見えなかったけどなぁ」


 アンナが泣きながらイヤイヤと首を振る。


「そのことを親に話したら怒られました。『今すぐソフィアちゃんに謝ってこい』って。私たちソフィーに酷いことしちゃったんです……親友なのに。謝ろうとしたらソフィーは今日休んでいるんです。そしたらヴィオラも休んでいて……」


 瑠璃は涙で目を赤く腫らしていた。


「クラスメイトのコニーくんから聞いたんですけど、今夜ソフィーとヴィオラが会うらしいんです。ヴィオラは以前も私たちにサイコキネシスを撃ったことがあるんです。南先輩が助けてくれなければ大怪我をしていました。だから今日はとても嫌な予感がするんです」


 華恋は泣く二人を慰めながら南の横顔を見た。


「どうする、南くん。喧嘩になる前に止めた方が良いよね。私も一緒に行くよ」


 南は黙っていた。表情はない。冷たい目でグラスに入った水を見詰めながらボソリと言った。


「今夜は……満月だっけ」


 唐突の呟きに三人はきょとんとした。「え? えーっと」華恋がスマートフォンでチェックをする。


「うん、満月みたい。それがどうかしたの?」


 南は視線を上げた。おもむろに空を見据える。その口元が微かに笑っていた。


「そっか……満月の夜は……マナが騒ぎ出す」


 急速に温度が下がってきた。気が付いたらグラスが凍っていた。ザワザワと店内の客が騒ぎ始める。アンナと瑠璃は信じられないものを見るように南の冷気(マナ)を視ていた。


「僕一人で行く。華恋が来るとフィオナやアリスまで来そうだから……大勢で行って刺激したくない」


 華恋は腑に落ちない顔をしている。南はアンナと瑠璃にこう言った。


「きみたちは……想っていてほしい」


「え?」


「今夜はソフィアのことを強く想っていてほしい」


「は、はい!」


 二人に言葉の真意は掴めなかったが、大きく頷いた。南は席を立つと、何も言わずに店を出て行った。華恋はその背中を見送ると凍り付いたグラスに視線を落とす。静かに目を閉じて短く息を吐いた。


(彼のあの雰囲気……ちょっと危ういな。さて、クラス委員の私はどうしよう。黙って行かせていいものか)


 瑠璃は急に押し黙った華恋を不安そうに見ている。


「あの、華恋先輩。どうして南先輩はあんなこと言ったんですか? 今夜、何があるんですかね」


「うーん。今回の彼は色々と意外なんだよ。昔から他人に興味を示す子じゃないんだけど。どうやらソフィアちゃんはちょっと違うみたいだねぇ」


 華恋は端正な眉をハの字に歪めながら首を捻った。


(彼が熱くなるのは、決まって亜梨沙さんのことか……)


――赤目の少年が絡む時。


 思い出すのはまだ初等部だった頃の事件――華恋は自分に宿る炎のマナが疼くのを感じた。そして可笑しそうに笑う。


(パイロ系の性格診断は情熱的なんだよ。アイス系のきみとは正反対なの)


 パチンッ。華恋が指を鳴らすと凍っていたグラスの水が溶け始めた。「わ……」アンナと瑠璃は口を大きく開いてそれを見ている。華恋はニッコリと笑うとこう言った。


「ダメダメな彼が放っておけない私もダメかもね」

【参照】

朱雀華恋→第五十八話 異能訓練校の劣等生

赤目の少年を気にする南→第百二十八話 ソフィアの試験

ヴィオラにサイコキネシスを撃たれた→第百六十話 ソフィアとヴィオラ

華恋に冷蔵庫を覗かれた→第二百五十五話 ダメダメなキミが気になる腹黒少女

華恋とヴィオラ→第二百五十六話 神喰正宗

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