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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百五十九話 少女の豹変と冷笑

 それからソフィアは普段通りに過ごした。勉強し、笑い、南と異能の訓練をして、一日一日が過ぎていく。ただただ今を大切に生きていた。たまに記憶が欠落しても笑顔で誤魔化した。そして感じていた。ソフィアでいられる時間はもう短いと――。


 ある朝、ソフィアはコニーに呼び出された。いつのことだったか秘密の花園のヒロインのようだと褒められた庭園だ。あの時はときめいたが今日のソフィアは冷めていた。


「ソフィアちゃん、元気出してよ」


 コニーはいつもの優しい笑顔で気を遣うが、ソフィアは笑わない。


「ちょっと疲れているの。で、何か用?」


「きみは賢いからもう全て知っているんだよね。アンナと瑠璃のことで話があるんだ」


 コニーは憎らしいほどいつも通りだった。このように笑えば、このように話せば女子から好感を持たれると知り尽くしているかのように振る舞う。ソフィアはある意味で感心した。


「ヴィオラは本気で配送センターを閉鎖するつもりさ。実際にウェブに特化したフルフィルメントサービスをスペックスとマクロキャッシュが共同開発する案が出されているんだ。老朽化した配送センターは取り壊されても仕方がないよね」


「アンナと瑠璃のお父さんはどうなるの?」


「これは大規模なリストラと言って差し支えないよ。ヴィオラは失業した二人の親をマクロキャッシュで再雇用して大きな貸しを作るつもりなんだ。これだと親子揃って一生奴隷扱いだよね」


 コニーはそこまで話すとニコリと笑った。


「僕ならあの二人を救うことができる」


「どういうこと?」


「父にセンター閉鎖をやめてもらう。今なら間に合うよ」


 ザァと風が吹いた。花壇のハーブが揺れている。二人はただ互いの顔を見ていた。先にソフィアが口を開く。


「何が望みなの?」


「ソフィアちゃんが僕と結婚すること」


「どうして私なの?」


「エリートの家柄の僕には同じくエリートの家柄のソフィアちゃんが相応しいからさ。僕たちは結婚する。それが一番良い。とても自然なことだ」


「ヴィオラだって大企業の令嬢じゃない」


「あの子は品性が足りないよ。それにスペックスはマラソン・エナジーの再エネ技術が欲しいんだ。きみにとっても悪い話じゃないはずだよ」


 コニーはソフィアの髪を撫でて微笑んだ。


「きみが僕のものになればアンナと瑠璃はいつもの生活に戻る。絶交も取り消しさ。まあ、あまり二軍とは仲良くしてほしくないけどね。その辺りは僕が折れるよ。良い夫でありたいからさ」


 コニーとヴィオラはグルだ。自分を陥れるためにここまでする。大勢の人たちを巻き込んでも笑顔でいられる。彼等にとっては配送センターの従業員の人生なんて塵に等しい。


「アンナと瑠璃は泣いていたよ。親のこともあるだろうけど、きみと離れるのが悲しかったみたいだ。僕は親友なんて概念は信じられないけれど、きみたちはそうだったのかもしれないね」


 ソフィアは涙がこみ上げてくるのを感じた。やはり二人は親友だったのだ。


(嫌だな、私。最近泣いてばっかり……)


「二人を救えるのはきみだけだよ。さあ、良い返事を聞かせてほしい」


 ソフィアはこの日初めての笑顔を見せて答えた。


「お断りします」


 コニーが無表情になった。


「二人が不幸になってもいいの?」


「いいわけないでしょう。でもね、私はあの二人の性格をよく知っているの。自分のために親友が犠牲になって笑顔でいられる子たちじゃないもの。それに私……好きな人いるの」


 コニーの顔に嫌悪感が浮かんだ。


「……黒川先輩かい?」


 ソフィアはその問いに答えなかった。コニーは溜息をつき自嘲気味に言った。


「僕と一緒になるのが一番平和な解決法だったんだけど仕方ないね。ヴィオラからの伝言を預かっている」


「なに?」


「文句があるなら明日の夜にここで待つってさ。場所は今スマホに送った。マクロキャッシュの物件だね」


 コニーは心配そうに忠告をする。


「気を付けなよ、ヴィオラは本気できみを殺そうとするかもしれない」


「どうして?」


 ソフィアは自分でも驚くほど冷静だった。


「あり得ない話だけどA級に上がるには人を殺さなければならないって噂があるんだよ。ヴィオラってキレてるからさ、やりかねないよね。君たち三人を生贄にして昇級を企んでいるのかもしれない」


(生贄……?)


――ソフィアの胸の中でソレ(・・)(うごめ)いた。夢で何度も触れた底の知れない絶望と悲しみ……血みどろの狂気。本能でソレに抗いながらも侵食されることに快感を覚える。


『ふふ』


 ソフィアは笑った。しかし、声や表情は別人のモノだった。


『以前から目障りな小娘だと思っていましたが、お仕置きが必要ですね』


「ソフィア……ちゃん?」


 コニーは思わず後退りをした。目の前のソフィアからこれまで視たことのないような禍々しいマナが溢れ出ていたからだ。


『あの子供……ヴィオラに伝えてください。会うのを楽しみにしているわって……ね』


 ソフィアはそう言うと庭園を出て行った。そしてその日はもう学校に戻ってこなかった。

【参照】

秘密の花園→第百六十二話 秘密の花園

A級の条件→第三百二十二話 人を確実に殺せる異能を持つ者

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