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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百六十一話 月夜叉の招待状

 空には満月。月光浴はマナを増大させる。南は淡い月明かりに身を委ねて目を閉じた。


『美しい月じゃな』


 少女の声が聞こえた。いつの間にか月夜叉(エストリエ)が部屋にいる。ソフィアの姿ではなく、白いブリオーを着た異国の少女だった。


「小さくない?」


『本体はソフィアに憑いているからの。この大きさが限界じゃ』


 エストリエは三十センチほどの大きさだった。絵本で見る妖精のような姿をしている。背中から羽が生えており、天井付近でホバリングしていた。


『残月の息子よ……人が精霊に勝てると思っているのか? わらわは月の精霊。満月の夜はマックスパワーじゃ』


 エストリエが羽ばたくと月のマナが鱗粉のように舞う。それは暗い部屋でキラキラと輝いている。


『意外じゃよ。何故ソフィアのためにそこまでする。思えば誘拐事件の時からこの娘に肩入れしておったのう。お主は自分の境遇と重ねているのか? 圧倒的な異能(ちから)を宿した器としてな』


「そういうあんたはどうしてエリソン家にこだわる?」


『ふふ、暇つぶしよ。強いて言うなら……フローラとソフィアの髪の色が好きじゃ♪ 美しい月の色をしておるしの』


 そう言って南の顔を覗き込む。魅惑的な金色の瞳が南の目を捉えて離さない。


『お主、もしや――フローラのマナ切れを狙っておるのか?』


「……」


『確かにマナが切れればフローラの影響力は減る。ソフィアは正気に戻るだろう。だが分かっておるのか? フローラのマナが切れるまで正面から攻撃を受け続けることになるぞ。いくらお主のマナが無尽蔵だとしても人のレベルじゃ。わらわからマナの供給を受けるフローラが先にガス欠になるとは思えん……本当に死ぬぞ?』


 それを聞いて無表情だった南が笑った。少年が秘める狂気に触れてエストリエは一瞬真顔になる。そして目を細めて南に顔を近づけた。


『……お主には複雑な呪いがかかっているな。ふむふむ、サイコの姉と繋がっておるのか。ふーん? これはもしかするともしかするかのう』


 エストリエは興奮したように言う。


『いやな、お主の周りには女子(おなご)がたくさんおるが、実はソフィアがメインヒロインだと思っておったのじゃ。その資格があるしの。いやいや、こういうルートもあるのか。……まあよい』


 思わせぶりに笑うと南の肩に座った。そしてその頬を撫でる。


『残月という名前が好きじゃから、その息子のお前のことは嫌いではない……が、バトルになったら加減できん。フローラの思念が強すぎるゆえ。ソフィアを殺すつもりで挑んでこい』


 エストリエはそう言い残してフッと消えた。



 ◆



 エレベーターホールに行くと華恋がいた。いつもの笑顔を浮かべながら壁に寄りかかっている。


「こんばんは。やっぱり一緒に行くことにしたよ」


 南は溜息をつくと華恋を無視してエレベーターのボタンを押した。そろそろニックとミリアが協会に着く時間だった。華恋がさり気なく南の横に立つ。


「ただの喧嘩の仲裁だし……僕一人でいいってば」


 高層階にいるためエレベーターはなかなか上がってこない。中途半端な時間が流れる。華恋が口を開いた。


「嘘だよ。難易度特A級の任務でしょう」


 声のトーンが低い。南は思わず横を見た。華恋の顔から笑みが消えている。


「きみはいつも言うよね。『僕がやるから下がっていい』って。あれさ、女の子は勘違いしちゃうと思う。守ってくれるんだーって。私もそう思ったことあるけど……この前のパーティーの時、きみのスピーチを聞いて違うと気付いたの」


 華恋の言葉には明らかな怒気が込められていた。


「あんなぬるい任務じゃ僕は死なない。早く僕を戦場に戻せ――マスコミには受けたし会長も満足していたけれど……最悪だよ。ふざけているのかな?」


「……別に」


「だから別に、じゃないよ」


 華恋は南の肩を掴むと壁に押し付けた。細い腕に強い力が込められている。ふわっとシャンプーの香りがした。


「いつも退屈そうにしているくせに……任務になると平然と死線を越える。初等部の頃、一緒にチーム組んだ時もそうだった。きみは死にたがりの少年兵と同じだよ。じゃあ死ねばって思えるほど、私はきみとの関係を軽く見てはいない。いくら鈍感なきみでも分かるよね」


 南は華恋の視線を真正面から受け止める。その瞳に自分の顔が映っていた。


「もう委員長であることを理由にしないよ。私はきみが大切だから死んでほしくないの。だから今日は一緒に行くね」


 ポーンと音が鳴りエレベーターが開く。華恋は南を解放して微笑んだ。いつもの優等生スマイルだった。


「私、本気出すとラクルテルさんよりも強いんだよ。きっときみの役に立てるから」


 火鳥(フェニックス)の異名を持つ朱雀華恋はA級認定の最年少記録を更新した経歴を持つギフターだ。裏ルールがなければとうにAA級に上がっている。南は気怠そうに頭を掻くと無言で頷いた。

【参照】

ソフィアに肩入れする南→ 第二十七話 黒川南とフィオナ=ラクルテル

南の「下がっていていいよ」→第六十話 朱雀華恋

死線を越える→第二百三十話 僕ごと貫け

南と亜梨沙の呪い→第二百三十八話 終末の世界で生きていく

マスコミに受けたパフォーマンス→第二百五十八話 あんなぬるい任務じゃ僕は死なない

裏ルール→第三百二十二話 人を確実に殺せる異能を持つ者

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