第三百五十七話 一軍の共謀者
「ヴィオラの親は外資系大企業マクロキャッシュグループの役員なんだ。あいつは親の七光りが嫌いでさ。自分の実力でギフターになろうと必死になって歪んじゃったんだよ」
チサトは缶ジュースを飲みながらこう続ける。
「最近知ったんだけど、アンナと瑠璃の父親ってマクロキャッシュの配送センターで働いているんだ。ヴィオラがあの二人に絡んでいたのは親が原因だったってわけ。要するに見下していたの」
「……え?」
ソフィアは嫌な予感がしてチサトの顔を見た。
「ヴィオラは相当あんたのことが嫌いみたいだね。ソフィアと絶交しないと配送センターを閉鎖すると脅しやがったんだよ。プライドを捨てて、禁じ手……伝家の宝刀を抜いたってこと。まじエグいよね」
「嘘でしょ! 子供の喧嘩でそんなこと……!」
「そう、普通ならあり得ないよ。ただ厄介なことにセンター閉鎖は以前から噂されていたんだ。店舗戦略の見直しの一環としてね。おまけに父親は娘を溺愛していて頭が上がらないときたもんさ」
チサトはお手上げのポーズをとって笑う。
「そんな……アンナも瑠璃も私に言ってくれればいいのに!」
ソフィアは制服のワンピースの裾をギュッと握る。チサトは眉をひそめながら衝撃の事実を語った。
「この件にはコニーの野郎も絡んでるよ」
「え! コニーくんが?」
脳裏にいつも優しいコニーの顔がちらついた。
「配送センターの委託先が物流大手のスペックスなんだよ。コニーはヴィオラにそそのかされてセンター閉鎖を役員の父親に提言したらしい。あいつは子供だけど優秀だし親の後を継ぐからそこそこの影響力はあるんだ」
ソフィアの中でコニーの笑顔が崩れていく。ショックで吐き気がした。
「狡猾だよね。この話はマクロキャッシュとスペックスの問題で協会は口出しできない。つまりペナルティはないってこと。数百、もしくは数千人の人生がどうでもいいと思えるなら」
重苦しい時間が流れる。ブーン……背後にある自販機からファンの稼働音が響いて耳障りだった。ソフィアが沈黙を破る。
「ヴィオラとコニーくんがグルだとして、彼に何の得があるの?」
「コニーはあんたを自分のものにしたいんだ。それであの二人が邪魔なんだよ。二軍と仲良くすると『ソフィアの価値』が下がるのさ。あいつは将来の伴侶にも一流を求めている。だからヴィオラの提案に乗ったんだろうね。どっちもどっちさ、金持ちって奴はぶっ飛んでやがる」
ソフィアの心拍数が上がっていく。過呼吸を起こしそうになった。たまらず胸を押さえる。
「アンナと瑠璃は親を人質に取られているんだ。異人が失業したら再就職は厳しい。例え残ったとしてもどんな仕打ちをされるか分からない。逆らえないよね。ヴィオラはそこまでしてあんた達の仲を裂こうとしているんだ」
大切な友達が理不尽に奪われようとしている。ソフィアの胸の中で何かが疼いた。自分の感情とは違う別の何か――トラウマのようなモノが心を引っ掻いた。
――敵ヲ殺セ――
「あの二人が辞めても、それで終わらないと思う。ヴィオラは最後に何かを仕掛けてくる。あいつは徹底的にやるよ。あんたも怪我じゃ済まないかもしれない……って、ソフィア?」
「はぁ、はぁ……うっ!」
ソフィアは通路に倒れ込んだ。チサトが慌てて立ち上がる。
「ちょっと、ソフィア! うそ、ヤバイ感じ? 救急車!」
チサトがスマートフォンを取り出して外部と連絡を取ろうとした時、背後から声を掛けられた。
「なにやってるの」
いつの間にか南が立っている。チサトは動揺しながら答えた。
「黒川先輩! あの、ソフィアが発作みたいのを起こしちゃって」
南は目を細めてソフィアを視た。
「マナが暴走したみたいだけど、もう大丈夫かな」
「え?」
ソフィアの発作は治まっていた。しかし青白い顔をして苦しそうにしている。南はヒョイとソフィアを抱えるとチサトに背を向けた。
「このエリアには医務室があるから連れて行くよ」
「は、はい。私チサトって言います。何かあったら呼んでください」
南は無言で頷くとその場を後にした。(……?)ソフィアは薄っすら目を開けると、南の顔を見上げた。
(あれ、前にもこんなこと……あったような……いつ……だっけ……)
ソフィアは何かを思い出しかけたが、次第に意識が遠のき、再び目を閉じた。
【参照】
いつだっけ①→第四話 血に染まった部屋
いつだっけ②→第二十七話 黒川南とフィオナ=ラクルテル
アンナと瑠璃に絡むヴィオラ→第百六十話 ソフィアとヴィオラ
ソフィアを狙うコニー→第百六十二話 秘密の花園




