第三百五十六話 チサトの交換条件
その日は三日ぶりにアンナと瑠璃が登校した。しかし話すタイミングを掴めず昼休みまで待つことになった。チャイムが鳴ると同時にソフィアはアンナの席へ向かう。派閥の女子に捕まる前に話がしたかった。
「アンナ、久しぶりだね」
「あ……ソフィー」
アンナの表情が暗い。視線を合わそうとしない。自分たちは親友だったはず。ソフィアは納得ができなかった。
「一緒にランチ食べようよ」
「えっと……私は遠慮しておくよ」
「どうして?」
「だって私は二軍だから」
「なに言ってるの! 一軍とか二軍とか誰が言い出したか知らないけど、私たちには関係ないじゃない!」
ソフィアは大声を出した。教室がざわついている。するとヴィオラのグループが近付いてきた。その中には瑠璃の姿もある。
「嫌がっているんだからやめなよ。アンナは私たちと一緒に行くんだから。ねえ、アンナぁ?」
ヴィオラの言葉にアンナは弱々しく頷いた。ソフィアはヴィオラを睨む。
「どういうつもり? あなたたちとアンナは仲良くなかったはずだよ。まさかヴィオラ、何か企んでいるの?」
「はぁ? 私たちは善意で二軍のこの子たちと仲良くしてあげているんじゃない。別に苛めてねーし、そんなことしたらサイコメトリーでバレて退学だし。あんたバカぁ?」
「私の親友を傷付けたら、あなた許さないわよ」
「許さなかったらどーすんの? ふふ、またサイキネかましてやろーか?」
喧嘩になりそうな雰囲気を察して瑠璃が間に入った。
「ソフィー、私たちは自分の意志でヴィオラのグループにいるの。一軍と一緒にいると苛められないしね……行こうアンナ」
ヴィオラは勝ち誇ったように笑った。
「だってさー。ほら、あんたも友達いっぱいいるじゃない。そっちと仲良くすればぁ? バイバーイ」
ソフィアの後ろにはコニー達がいた。ヴィオラの不遜な態度に何も感じていないようだった。
「行こうよ、ソフィアちゃん。今日は晴れているし屋上なんてどう?」
「あ、コニーくん。うん……そうだね」
結局アンナと瑠璃とはそれ以上の会話はできなかった。すれ違ったまま数日が経過し、放課後の異能訓練の時間。ソフィアはコートを羽織って南のアイスキネシスをボーッと眺めていた。
(私、疲れているのかな)
最近のソフィアは奇妙な夢に悩んでいた。夢の中にライと残月という少年が出てくるのだ。その二人はソフィアの知った顔によく似ていた。特に「残月」はSS級ギフターにその名を連ねている。珍しい名前だが、同一人物であるかは分からない。
(変な夢だよね。知らない人たちに囲まれて世界を旅する夢……私どうなっちゃったんだろう)
――コンコンとガラスを叩く音が聞こえた。振り返ると訓練室の外に女子生徒の姿が見える。ヴィオラの友人のチサトだった。
◆
訓練室脇の通路の奥に自販機とベンチがある。ソフィアとチサトはそこに座った。
「ここならヴィオラも来ない。あんたに話があんのよ」
「ふーん。ヴィオラの手下が何の用なの?」
ソフィアは冷めた目でチサトを見据えた。チサトは肩をすくめて笑う。
「別に手下じゃねーよ。まあいいわ。これからあんたにあんたが知りたがっていることを話す。でも条件があるよ」
「なに?」
「黒川先輩に紹介してよ。私は出世したいんだ」
チサトの表情は真剣だ。向上心があるだけソフィアの派閥メンバーよりはマシだが感情的に快諾しがたい。
「南先輩に取り入ろうとしても無駄だよ。あの人、異能にしか関心ないから。多分傷付く結果になる」
「それでもいい。AA級と繋がりたいんだ。副会長に近づけるかもしれねーし。私の家はヴィオラほど金持ちじゃないから、使える手は何でも使いたいんだよ。卒業したらすぐにギフターになりたい。目標はA級以上!」
ここでもお金の話か――ソフィアはウンザリした。
「紹介するだけならいいよ。あとは自分で勝手にやって。……で? アンナと瑠璃の話だよね」
チサトは人懐っこい笑顔を浮かべた。
「や、やったー! 約束は守ってよね。上手くいったら私はあんたの派閥に入るからよろしくぅ。えへへ♪」
異人の子供はドライだった。利害が一致するから群れるだけだ。(どーでもいいね)ソフィアはこの構造がとても馬鹿らしく思えてきた。
「アンナと瑠璃の態度の変化。ありゃ裏でヴィオラが糸を引いてんだよ」
「だろうね」
「あいつとの付き合いは短くないんだけど、今回は相当腹黒いよ。ガキの喧嘩じゃ済まされないレベル。私もちょっとヤベーと思ってる」
チサトは声をひそめて語り始めた。
【参照】
ヴィオラとの確執→第百二十九話 ソフィアの学校生活
チサト→第百六十話 ソフィアとヴィオラ
残月→第二百五十八話 あんなぬるい任務じゃ僕は死なない




