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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百五十四話 アカシアの双子と宇宙記録庫

 篠突(しのつ)く雨に境内の石畳が白く霞んで見える。それを横目にシュウとリッカは拝殿で向き合い座っていた。シュウは腹芸が苦手だ。単刀直入に切り出した。


「ある事件を追っていて赤目の少年の話を聞いた。最初は君だと思ったけど君はどう見ても女の子だ」


 シャーロットから聞いた赤目の少年。最近その存在感が増しているように思えた。


「赤目の少年について何か知っていたら教えてくれないか」


 予期していた問いだったのか、リッカは背筋を伸ばしてシュウの顔を見た。


「その少年の名はセツカ……私の双子の弟です」


 ずっと笑顔だったリッカの表情に影が差す。


「私たち双子は虐待を受けていました。シュウ様はご存じでしょうか。十年前に出回ったSNSの動画を……」


「双子の虐待動画? ああ、協会(トクノー)設立や特能法施行のきっかけになった動画だろう? 異能が暴発して母親が重症を負ったっていう……。え、もしかして……」


 リッカは寂しげに笑った。


「はい、私とセツカです。あれは地獄のような日々でした。私たちはマナリンクに保護されましたが、セツカは姿を消しました。もう何年も会っていません」


 リッカは立ち上がるとシュウの横に座り直した。緊張しているのか小さい肩が震えていた。白く細い指で自分の目を差しながら言う。


「この赤い目が発現した異人を『アカシア』と呼びます」


「アカシア?」


「元始から未来までのあらゆる情報が記録されている宇宙記録庫――マナペディアにアクセスできる異人がアカシアです」


 シュウの顔が引きつった。聞き慣れない単語の連続で脳のキャパを超えたのだ。


「失礼します」


 リッカはシュウの頬に両手を添えると息がかかる距離まで顔を近づけた。深紅の瞳がシュウを見据えて離さない。その大胆な行動にシュウの心臓は飛び出しそうになった。


「私の目を視てください」


「あ、ああ?」


「私はこの目で宇宙記録庫(マナペディア)を視ています。分かりますか?」


 リッカの目に凄まじい量のマナが集約されているのが分かる。赤いマナがグルグルと渦を巻いていて魅入られそうになった。


「マナペディアは宇宙に存在するマナの集合体……膨大な情報が刻まれています。それはあまりに巨大で人知を越えた存在ですが、確かにあるのです」


「雨夜が言っていたな……君には前世の記憶があるって。それはアカシアだからか?」


「はい。マナペディアを読み解けば過去だけでなく未来を視ることもできます。私は今日雨が降ることもシュウ様が来られることも知っていたのですよ」


 リッカの吐息がくすぐったかった。可憐な美少女とのスキンシップにシュウは我慢の限界だった。


「あのさ、これ見られたら誤解されねーか?」


「え? ……あ」


 少し前のめりになれば唇が触れそうな距離。リッカの白い顔がみるみる赤くなった。ゆっくりと手を離すと壊れたカラクリ人形のような動きで正座する。しばらく俯いたまま顔を上げなかった。


「……予知とまではいかなくてもシュウ様にも覚えがあると思うのです。既視感や虫の知らせ、正夢――これらはマナペディアからの情報だと言われています。それは宇宙にあり、すぐ近くにあるのですよ」


「リッカちゃんは過去と未来が分かるのか?」


「必ずしもそうとはいえません。特に未来の情報を読むには多量のマナを消費しますし、それ相応の対価を払います。当然情報は言語化されておりませんので解読は難解です。またその情報をどう解釈するか……これは術者によって違うのです。そういう意味では未来は一つではないといえますね」


 照れながら語るリッカは年相応の少女に見えた。シュウはリッカの肩を掴んで問う。


「セツカがどこにいるのか分からないか?」


「会って……どうなさるのでしょう」


 リッカが上目遣いでシュウを見た。金色の視線と赤色の視線が交差する。静かな空間に雨音だけが響いていた。リッカは先に目を逸らして呟いた。


「何年も会っていないのは本当です。マナペディアでも居場所が分かりません。ただ……」


「なんだ?」


「マナリンクから姿を消したセツカは……ダークマナ教にいると聞いています」


「そうか。ありがと!」


 シュウは笑顔で礼を言い、リッカの頭を撫でると立ち上がった。


「雨、止みそうにねーから帰るよ」


 リッカは困ったようにはにかんだ後、おずおずと口を開いた。


「あの、本日はこれを言うつもりでこちらへお呼びしたのですが……」


「なんだ?」


「シュウ様のお知り合いの金髪の女の子のことです」


「もしかして、ソフィアちゃんか?」


 リッカが頷く。


「彼女に危険が迫っています」


「なんだって!」


「シュウ様は彼女を助けに行くことになるでしょう。その時は必ず私を呼んでください。きっと私の異能(ちから)が必要になるはずです」


 最近のソフィアは変だった。やはり何かが起こったのだ――。シュウの胸中で不安と後悔が溶け合っていた。

【参照】

異人の双子の虐待動画①→第十二話 せっかく異人の友社に入社できたのに私の知能が低すぎる件【落合茉里咲】

シャーロットと赤目の少年→第三十八話 無色透明の笑顔

シャーロットに聞いた赤目の少年→第四十四話 世界の終わり

マナリンクと未来の記憶→第八十三話 マナリンク

リッカの前世の記憶→第八十四話 赤目の少女

赤目の少女・アフィ→第二百十話 復讐の炎

アフィの予知→第二百十一話 赤髪の巫女

最近のソフィアは変だった→第二百三十七話 南の言葉

ダークマナ教→第二百四十三話 ダークマナ教の信者

異人の双子の虐待動画②→第二百五十七話 赤目の支配者は笑う

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